「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【新東京書簡】第二十八信『おれの声をかき消せ』海江田(17.10.25)

新東京書簡

第二十八信 おれの声をかき消せ

■ガイドの仕事

こないだ、上野の森美術館で開催されている『怖い絵展』に行ってきたんですよ。最大の注目作は、ポール・ドラローシュの『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。日本初公開、ロンドン・ナショナル・ギャラリーを代表する名画だ。これが超デカい。壁一面、ド迫力の大作に圧倒された。

恐怖をダイレクトに描いたものもあるが、ほとんどの作品は何の変哲もない絵だ。わずかに不気味なものを感知する程度。そこで、絵の横の解説文を読み、さらに詳しい音声ガイドを聴くと、不気味さの正体が眼前に立ち上がってくる。その仕掛けがミソである。

後藤さんは美術系の出だからよくおわかりでしょうが、これっておれらの仕事の一部だね。なぜ、そのプレーが生まれたのか。チームの勝因や敗因と絡め、知られざる背景、ロジックを伝える。誰も気に留めない些細な出来事の味わいが深まれば、なおよい。前回、後藤さんの書いた〈佐藤一樹FC東京U-18監督率いるトップチームも観てみたい欲望もあるけど、半年でいなくなっちゃったらどうしようという恐怖が先に立つ〉というのも、それまでの流れを知らない人には重大性が理解できない。

本来、サッカー観戦は五感に訴えかけるもので、そこで感じるがままに身を委ね、満たされる人は幸せだ。すでに自分なりの楽しみ方を確立している人はガイドを必要としない。一方で、ガイドを求める人には、手段が豊富に用意されていたほうがいいに決まっている。

『怖い絵展』は12月17日まで。ご興味のある方はぜひ行ってみて。面白いよ。

遡ること、3ヵ月前。昼下がりのクラブハウス、高木大輔とメディア関係者の井戸端会議が行われた。特に予定されていたわけではないが、人好きのする高木大の周りではよくあることだ。このときのテーマは集客について、だった。

「選手が協力して、できることがもっとあると思うんです。おれもう、いやですよ。2000人や3000人のスタジアムなんて。あの頃には戻りたくない」

ここ数年は、入場者数が極端に少なく、あわや1969人のピタリ賞が出そうになることはさすがになくなった。チームの好調やクラブの働きかけ、サポーターが新規のファン獲得に向けてチャントの歌詞カードを配るなど、さまざまな活動によってベースは上がっている。年に数回、狙いを定めて集客試合をつくると同時に、一定の数字を割り込む試合(東京ヴェルディの場合は4000人が目安か)を減らしていくのがセオリーだ。

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