「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【新東京書簡】第二十八信『おれの声をかき消せ』海江田(17.10.25)

自分のため、チームのため、さまざまなものを背負い込んで高木大輔は走る。

自分のため、チームのため、さまざまなものを背負い込んで高木大輔は走る。

■大観衆の前ではモチベーション急上昇

「フロンターレを見てくださいよ。平日のゲームで、等々力に2万人以上を集めている。選手として成長し、チームが強くなろうとするのは当たり前です。そのうえで、何かやれることはないのか」

高木大は、試合後の等々力陸上競技場の外の風景を見ている。そこには、選手バスが出発するまでの間、握手をしたり、サインをもらって盛り上がるサポーターの笑顔があった。

「スタジアムの構造上、同じことが難しいのであれば工夫をしないと。加えて、うちは練習がほとんど非公開。監督やコーチの考えによるものだから仕方がないとして、それなら補うために別の手立てを講じるべきだと思います。シーズン前半が終わって、選手とサポーターが触れ合うイベントが何回ありました? 数えるほどしかないですよね」

人から誘われて、あるいはちょっと気になる選手がいて、たまたま東京Vと接点を持った人は過去に多くいるはずだ。問題は、次の機会につながるアクションをどうやって起こさせるのか。監督や選手、クラブそのもの、コミュニティとしての魅力。どこに向かって、おかわりと茶碗を差し出すように仕向けるのか。深入りするために、手がかりとなる材料が明らかに不足している。

「ピッチ外の活動をめんどくさいと思う人もいるだろうけど、それも仕事のうちですからね。サポーターを始め、スポンサーや市町村の応援があるから、僕らはサッカーをやれているわけで。シーズンの最初と最後だけ会っても、その場で何を話せばいいかわからない。そんなことでは、いずれ離れてしまうのではないかと不安になります。だから、そういう機会があった際、おれは動けるときに動こうとするんですが、コンディション優先とストップがかかる。そんなことで疲れるわけないのに。このあたりは選手とフロントの距離を感じますね。上の会議に自分を入れてほしいくらいです」

高木大に関しては、中3日の試合が続く時期でも疲れた顔は見たことがない。彼の背中を後輩たちが見ているせいだろう。若手の多くはピッチ外の活動に対し、じつに協力的だ

2017シーズン、これまでの1試合平均入場者数は5,770人。参考までに2016シーズンは5,402人。2015シーズンは5,655人だった。チームの成績は乱高下しているが、こちらはほぼ横ばいだ。

「人がたくさん入ったときは、モチベーションが格段に上がります。やってやるぞという気分が高まる。味スタは広くていいスタジアムだけど、選手の声が大きく響くのはさみしいです」

J2第38節が終了し、東京Vはプレーオフ圏の5位。2位のアビスパ福岡とは勝点5差と、自動昇格にも手が届きそうになっている。28日は、その福岡とホームで直接対決だ。

今季、残り4試合のうちホームゲームが3試合と日程は有利。あとはどれだけ人を集めて、チームを後押しできるか。そこの勝負でもある。

 

『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗

 

 

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