「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【フットボール・ブレス・ユー】第28回 10番を継ぐ者(17.11.1)

第28回 10番を継ぐ者

10月28日のJ2第39節、アビスパ福岡戦。前半、井林章が前線のアラン・ピニェイロに出した縦パスが通らず、ボールは再び福岡へ。いかにもチャレンジのパスだった。うまく通れば相手を裏返し、一気に攻め込めただろうが、キックまでの予備動作にたっぷり時間をかけた結果、狙いは相手に筒抜けとなっていた。

そのとき、アランの近くにいた渡辺皓太は後ろに向かって何か言い、井林は手を挙げてわかったと応じている。

「イバくんの狙いはわかるんですが、あそこはアランにシンプルに当ててくれれば、自分が前向きでボールをもらえる。そこから攻撃できる。最近、できることがある程度増えてきて、周りから指示されるだけではなく、自分のやりやすいように味方を動かすことも必要だと感じています」(渡辺)

これを聞いた僕は、いいぞ、とほくそ笑む。守備は井林の領分だが、攻撃のイメージは渡辺のほうが何倍も豊潤だ。年齢に関係なく、プレーの基準を高いレベルに合わせることでチームは成長する。

一方、途中からピッチに立った井上潮音は、福岡戦をこう振り返った。

「ボールを受ける位置が低すぎて、ほぼ相手の堅いブロックの前でプレーすることに。外からの攻撃に偏ってしまったので、自分がもっといい位置でボールを受け、中をうまく使えるようにしなければいけなかったと思います」

最終ラインからパスを引き出そうとするとき、ほしいタイミングでボールを受けられていなかったように見えた。

「周りに敵がいても、出していいよ、ということは言いました。安全にボールを動かすだけでは点はこない。ただ、今日は自分の結果に少しこだわってしまったような気がしますね。こういったゲームを勝ち切るには、どこが向こうの弱点なのか把握しつつ、時間と状況に合わせたプレーをすることが大事になる」

フリーの概念は選手によって異なる。ある選手にとっては、半径5メートルの自由を確保するのが前を向ける条件だが、瞬間的に相手を外せれば充分という選手もいる。わざと背後におびき寄せて鋭いターンで入れ替わる、あるいは味方を巧みに使って打開するアイデアを持つ者もいる。いずれにせよ、チームの中心になれるのは、ボールをくれと示したとき、信頼して預けられる選手だ。

東京ヴェルディユース97年組の井上と98年組の渡辺。ユースでは、ともに10番を背負った。プロの世界に足を踏み入れたばかりの若者だが、昇格争いの佳境にありながらこの落ち着きぶりは感嘆に値する。

2016年、トップに昇格した井上潮音。彼のボールタッチが増えるほど、チームの攻撃が好転する。

2016年、トップに昇格した井上潮音。彼のボールタッチが増えるほど、チームの攻撃が好転する。

渡辺皓太は攻守に存在感が増す一方。今季がルーキーイヤーだが、ユース所属時に2種登録選手として11試合に出場している。

渡辺皓太は攻守に存在感が増す一方。一応、今季がルーキーイヤーだが、ユース所属時に2種登録選手として11試合に出場している。

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