【新東京書簡】第四十二信『さよなら、ワールドカップ』海江田(18.7.18)
第四十二信 さよなら、ワールドカップ
■メッシとエムバペ
ワールドカップのラウンド16、フランス対アルゼンチンは、すんごいゲームだった。キリアン・エムバペのPK奪取からアントワーヌ・グリーズマンがゴールを決め、フランスが先制。その後、アンヘル・ディマリアの強烈なミドルシュートがネットに突き刺さり、前半のうちにアルゼンチンが同点に追いつく。
後半、両者が1点ずつ取り合い、64分、68分とエムバペの連続ゴールでフランスがアルゼンチンを一気に突き放した。
リビングのソファーで、肩を並べてゲームを見ていた妻が言った。
「これは、千代の富士と貴花田だね」
かすかに声が震えている。感に堪えないといった口ぶりだ。
言いたいことはわかった。1991年の夏場所、当時18歳の貴花田(現在の貴乃花親方)が、ウルフの異名をとった昭和の大横綱、千代の富士(2016年7月に逝去)を破った。新旧交代を印象づける一番で、この場所中に千代の富士は現役引退を表明。兄の若花田とともに、日本中が若貴フィーバーに沸いた。
世界最高の選手と評され長く第一線で活躍してきたリオネル・メッシと、次代を担っていくに違いない期待の新星エムバペ。どうやら、この構図が妻の心の琴線に触れたようだった。
「おまえ、泣いてんのか?」
「泣いてない」
「泣いてるだろ」
「ううん、ほら見て」
そう抗弁する妻の目は真っ赤である。
「がんばれ、千代の富士。負けるな、千代の富士」
メッシも、まさか遠く日本からこんな形で声援を送られているとは思うまい。すっかり老いぼれ扱いだが、当分引退はないし、まだまだあきれるほど点を取りまくるだろうに。
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