「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【新東京書簡】第五十信『プレーオフ、真っただ中』海江田(18.11.28)

新東京書簡

第五十信 プレーオフ、真っただ中

■J1参入プレーオフ、チケット争奪戦

戦いは、水曜日から始まっていた。11月21日(水)12:00、2018 J1参入プレーオフ1回戦、大宮アルディージャ vs 東京ヴェルディのチケット一般販売開始。

おれの緑者関係のLINEグループは、朝からその話題でガヤガヤしていた。それぞれ仕事を持ち、必ずしも好きな時間に身体を空けられるわけではない。

「11時から打ち合わせが入っちゃった。誰か一緒に買っておいてくれないか。さすがに5分、10分で売り切れはないだろうが」

「夕方でいいかと思ってたけど、危ないですかね」

「仕事関係のランチが終わり次第、買いにいく予定」

いつでも入れるおれたちの味スタ。座席の心配などしたことがないぬるま湯体質。皆、チケット争奪戦に不慣れである。ビジター側の絞り具合はホームの大宮の裁量に委ねられ、販売数の見当をつけづらいというのもあった。

決戦に向け、早くもたぎっている感じがうらやましかった。少しでもチケット争奪戦の気分を味わいたいおれは、「だったら買ってくるよ」と手を挙げた。原稿を抱えてはいたが、そんなものはどうにでもなる。おあつらえ向きに、近所に客足のまばらなセブンイレブンがあった。あそこなら問題なくすぐに買えるだろう。

11時55分、セブンに到着。いつものようにガラガラである。余裕を持って店内をひと回りし、セブンチケットを購入できるマルチコピー機の付近に着いた。愕然とした。大量のコピーを取っている人がいる。たぶん、自分と同年代くらいの女性。あるっちゃある話なのだが、予想外の出来事に立ちすくんだ。

コピーなんか取ってんじゃねえよ、と思った。が、人にはそれぞれ事情がある。こういうとき、極端に自分勝手になる性質はよくないところだと自覚しており、年々、気が短くなっているのも問題だと感じている。

わずか1、2分の間にいろいろなことを考えた。頭に浮かんだプランは3つ。

(1)正直に事情を話し、コピーを中断して、ちょっとだけ譲ってもらえるように交渉する。

(2)限界まで接近し、耳元で「おれのヴェルディ、オーオー」と小声でさえずるように歌う。この際、アブないヤツだと思われても構わない。

(3)背後でしゃくりあげて泣く。「どうしたんですか?」と話しかけられ、よんどころない事情を明かす。母性本能をくすぐってやれ。

(残り 1129文字/全文: 2102文字)

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