「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【新東京書簡】第五十四信『サクラ咲く』海江田(19.3.27)

新東京書簡

第五十四信 サクラ咲く

■あったかもしれない東京ヴェルディ

昨日、日本代表のキリンチャレンジカップ2019、ボリビア戦。およそ1年半ぶりに招集された小林祐希(SCヘーレンフェーン)、今回新たに代表入りした安西幸輝(鹿島アントラーズ)、畠中槙之輔(横浜F・マリノス)が先発出場した。

で、後半の途中から中島翔哉(アル・ドゥハイルSC)が出てきて、75分、ついにゲームが動く。南野拓実(レッドブル・ザルツブルク)からパスを受けてボックスに侵入した中島は、中をチラッと見て鋭く切り返し。再び、目線と身体の向きで相手に中央を意識させながら、ディフェンダーの股下をスパーンと射貫き、ゴールネットを揺らした。

鮮やかすぎる千両役者の仕事に舌を巻きつつ、おれは冨樫剛一さん(U‐18日本代表コーチ)の言葉を思い出していた。今季、ユースから中央大を経て加入した安在達弥について、彼を戻すタイミングではどんなチームをイメージしていたのか訊くと、「あくまで育成からトップへの計画が理想的に進んだ場合ですけどね」と前置きして冨樫さんはこう話した。

「ユース育ちの何人かは外に出ているだろうけど、左サイドバックにアンカズ(安在和樹/サガン鳥栖)がいて、大学から帰ってきた達弥が右。最終的に(安西)幸輝は1列前もプロでやれる選手になっているかなと。そして、最終ラインの真ん中に畠中でしょ。中盤の底には三竿(健斗/鹿島)がいて、その前で攻撃的な仕事ができる人材は豊富だから、いろいろな組み合わせが考えられましたね」

いまとなっては現実味が乏しいが、もしかしたらあり得たかもしれない東京ヴェルディだ。そうして代表の試合に目を移すと、流されていくとこうなるんだぜ、というものを見せられている気もする。

その冨樫さんもいまはいない。強化部ダイレクター退任の知らせ、並びにJFAナショナルコーチングスタッフ入りの正式リリースはとうとう出なかった。

「別に僕のことなんか、誰も気にしてないでしょう」と冨樫さんは笑い、そこにどんな事情があって誰の機嫌を損ねたのか興味はないが、クラブとしての態度は別にあるべきだ。

事実として残るのは、ここまでクラブを支えてきた育成に長く携わり、トップの監督まで務めた功労者を裏口から出したということである。人が去っていく構造になっている根源は、こういうところなんじゃないかなあと思う。

言わずに済ませたいことではあるが、クラブの内圧が強すぎる一方、外圧が弱いというアンバランスは、体制が変わってもずっと残り続けている体質だ(不思議ですね)。気づいたことを言う人間が、ひとりくらいいてもいいだろう。

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