「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【トピックス】連載『中根玄暉 新米サッカーコーチの日常』〈10〉(20.11.19)

緑山SCの若手コーチングスタッフ。左から鈴木哲平、中根玄暉、金子悠斗、宮下弥優。

緑山SCの若手コーチングスタッフ。左から鈴木哲平、中根玄暉、金子悠斗、宮下弥優。日々、ボールとともに生きる若者たちだ。

■彼はプロになり、僕はなれなかった

11月1日(日)
町田小川FCとのU-10練習試合。明治大学体育会サッカー部所属で鹿島アントラーズの特別指定選手となっている常本佳吾は町田小川FC出身。何度も練習試合をした記憶がある。1対1でまったく抜けなかったことを覚えている。
彼はプロになり、僕はなれなかった。
シビアな世界であることを重々承知だからこそ、10歳だろうがここぞという時に厳しい言葉をかける。ハーフタイム、「上に行く選手はそんな簡単にミスをしないよ」。「……」Aの表情が曇る。A君のように緑山にはプロを目指す選手もいれば、純粋にサッカーを楽しみにきている選手もいる。
I君は後者の選手。今日ほどボールをたくさん触って、ボールを奪って、走った日は彼の中でなかったのだろう。試合終了後、「今日すごく頑張ったな!」と声をかけると、「うん!」と。これまでで一番充実した表情だった。マイベストゲームだったのだろう。
AとI、それぞれ違う心持ちで帰路に着くはず。サッカーの試合で全員が全員気持ちよく帰れることってあるのだろうか。お互いに今日という日を忘れないで欲しい。

11月9日(月)
鎌倉インターナショナルFCの監督を務める河内一馬氏のnote、「サッカーしか知らない者は、サッカーすら知らないのだ」。誰の名言か忘れたらしいが有名な監督が言ったらしい。
MITバルセロナのツイート、「常にサッカーと付き合ってしまうと、創造性を失うことになる。サッカー以外のことに目を向けることが大切だ」。ライプツィヒの監督を務めるナーゲルスマンの名言だとのこと。
類似した名言を同時に目にした日。2ヵ月前、師から僕が担当したトレーニングを見て「声が通っていない。コーチ側から喜怒哀楽を表せ。一定じゃ駄目だ。音楽のようであれ。お前、歌とかあんまり好きじゃないだろ。音楽聴け、音楽。クラシックとか」。
共通している。サッカーにすべての時間を費やしていては駄目だということが。
ヨハン・パッヘルベルのカノンを聴きながらグラウンドへ。じゃあ何を知るか、何に目を向けるかを問い続けながらハンドルを握る。サッカーしかしてこなかった者にとっては、新しいトレーニングを考えることと同じぐらい難事だ。

11月12日(木)
とある青梅市のクラブチームのU-14選手をスカウティングに。
先日、練習試合をした際は狙いを持った丁寧なサッカーをしていて、球際も強く、よく鍛錬されているチームだと感じた。最大の目的は選手個々の力を見ることだが、個人的にはチームの強さの秘密が垣間見えるのではないかと別の意味でも楽しみにしていた。
会場に着くや目に飛び込んだのは、グラウンドの外周を走る選手達。監督によると練習前に1500m走を2本走るらしい。タフだ。正直、僕はボールを使わない走り込みはあまり肯定的ではないが、強さを知っている分、こういう鍛え方もありだなと思ったりもする。
正解がないから迷うし、面白い。紅白戦が始まった。緊張感、選手間で飛ぶ厳しい声、インテンシティの高さ、チームの強さは練習に、紅白戦に詰まっている。昨年度から数多くのチームをスカウティングしてきたが、これがあるチームとないチームは雲泥の差がある気がする。
終了を告げるホイッスル。これは僕にとっての勝負のキックオフが迫っていることを意味する。さあ、口説くぞ。

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