【無料記事】【新東京書簡】第七十八信『林陵平がピッチを去る』海江田(20.11.20)
■毎日のトレーニングが刺激的だった
そんな林にとって、ロティーナ監督とイバンコーチとの出会いは僥倖だったに違いない。
東京Vにスペインの風が吹き込まれるなか、欧州フットボールに造詣の深い林は目を爛々と輝かせ、充実した日々を過ごした。
「毎日のトレーニングが刺激的で、サッカー選手として初めて教わったことがたくさんありました。トレーニングの組み立て、試合の指示、戦術的な要素。特にイバンとは誰よりもしゃべり、プロとして成長させてもらえましたね。全部が自分の財産になった」
そう振り返り、別れを惜しんだ。残念ながら、ピッチでそれを活用する機会は限られたかもしれない。もっとも、腐るものではないから、今後のキャリアに生かしていけるだろう。あの性分からして、サッカーと離れて人生を送れるはずもなく、新たな道を見つけて極めようとするのではないか。
人間関係では器用さを欠くところがあり、輪の外側に身を置いて、全体を冷静に見ているふしがあったと記憶している。和すれども同ぜず。柔和な表情の裏側に、ストライカーとして生きる孤高のプライドをのぞかせた。要領よく立ち回れる人より、そちらのほうがよほど信用が置ける。
今季の群馬では28試合ノーゴール。残り8試合だ。キャリアを締めくくる一発を待っている。
この際、一発といわず、ふたつ、みっつ、どさっとまとめて置いていっても構わない。まだやれるじゃないか! の大合唱におれも加えさせてくれ。
『スタンド・バイ・グリーン』海江田哲朗
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