「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【無料記事】【インタビュー】『東京ヴェルディの明日はどっちだ』中村考昭代表取締役社長に訊く・前編(21.8.18)

中村考昭

『東京ヴェルディの明日はどっちだ』
中村考昭代表取締役社長に訊く・前編

 

昨年末、東京ヴェルディ株式会社の経営権をめぐって勃発した争いは、ゼビオホールディングス株式会社が新株予約権を行使し、株式の56%を保有。ゼビオHDの連結子会社化で決着した。2020年12月25日、新役員体制に移行して2021シーズンに入り、およそ半年が経つ。
経営難に陥ったクラブを立て直し、持続的な成長を可能にするためにどのような取り組みをしているのか。そして、今後のビジョンは。中村考昭代表取締役社長に訊いた。

 

■前経営陣が用いた手法の問題点

――本日はお時間をいただき、ありがとうございます。Jリーグは中断に入りましたが、開催中の東京オリンピック関連でもお忙しくされているのでは? ※インタビューは7月27日に行われた。
「ゼビオグループのクロススポーツマーケティング株式会社が3人制バスケットボールの運営業務を委託され、一部のスタッフが関わっていますね。私は『3×3.EXE』(2014年に創設された3人制バスケのプロリーグ)のコミッショナーを務めておりまして」

――アイスホッケーの東北フリーブレイズの代表も。
「はい、兼務しています」

――クロススポーツマーケティングの代表取締役社長を務め、ゼビオホールディングス株式会社の副社長執行役員として組織全体をコントロールする立場。さらには昨年末から東京ヴェルディの経営トップに就任されました。
「ゼビオグループはスポーツカンパニー。われわれの本分はスポーツに関わることであり、その中心的な存在であるサッカーにもこうして関わらせていただいています。サッカー以外のスポーツ全般の話をすると、東京ヴェルディに対して100%のコミットメントではないのではと誤解されがちなんですが、その点はご心配なく。片手間のつもりでは決してありません」

――まず、ここに至るまでの流れから聞かせてください。東京Vが資金難に陥った2010年の途中から経営に参画し、11年という時間が経過しました。この期間をどのように振り返りますか?
「当時、ゼビオグループは新株予約権を通じて間接的に支援し、私は社外取締役として関わる形になりました。じつはあの年、ゼビオに入社しているんですよ。初めての大きな仕事が東京Vへの支援でした。ゼビオとしては子会社化し、クラブを持つことで所有欲を満たしたいといった希望はなく、スポーツ振興の一環という考え方です。 なぜなら、Jリーグは日本スポーツ界の中心にあり、そこでクラブチームの草分け的存在である東京Vは全体をリードし、日本のスポーツのあり方を変えた重要なチームだったからです。Jリ-グの中心に東京Vがあり、そこからバスケットボールやバレーボールのプロリーグが発足し、発展してきた。起点にあったのは東京Vです。2010年の秋、スポーツをよりよい形で発展させたいという動機から支援に乗り出し、ただし、結果として関わり方は間接的というか、一歩引いたところがあったと思います。羽生(英之)前社長はJリーグの事務局長を務めた方で、サッカーの世界を熟知するその道のプロ。きっと東京Vを最もいい形で進めてもらえるだろうという深い信頼のもとで経営していただいていました。私も社外取締役の立場でありましたが、クラブの方針について意見を申し上げることはほぼありませんでしたね。無責任にそうしたわけではなく、信任していたということです」

――前経営体制時、ゼビオの保有する新株予約権はクラブを安定して経営していくために、外部の乗っ取りを防止する意図があったと聞いています。ただ、実質的に経営権を掌握しながら、積極的にコミットしてこなかったという見方にもなるのでは?
「そうではありません。たしかに新株予約権は乗っ取り防止の意味合いが含まれます。ただそれが主眼ではなく、当時同じように株主の立場で支援を行った多くの方々対して配当権(配当を得る権利)や役員選任権(役員を選ぶ権利)など、株主に帰属する権利を維持保全するという趣旨もありました。さらに踏み込んで言うと、資本主義の観点では、株式会社という法人である以上、社会に存在する組織体として、 永続的に存続成長できる状況にあるべき。また通常、資本金は経営者の失敗や赤字を埋めるために使うものではなく、企業を成長させるための原資として存在します。そもそも、赤字を穴埋めするために増資を続けるという前経営陣の手法は、上場を前提としないスポーツクラブの場合、私は間違いだと思っています」

次のページ

1 2 3
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ