宇都宮徹壱ウェブマガジン

どこよりも早い! 2018ロシアガイド 第8回『ロシア・サッカーの命運を握るサマラ』 text by 服部倫卓

■自力更生に舵を切ったロシア・サッカー

前回お伝えしたとおり、ロシア代表はEURO 2016の予選で大苦戦中である。成績不振を受け、ついに7月14日にカペッロ監督の解任が決まった。契約解除に伴い、ロシア・サッカー協会はカペッロ氏に対し、600万ユーロの違約金を支払うということである。そして、その資金を、大富豪のA.ウスマノフ氏がまたしても提供することになった。

これまでの経緯をおさらいすると、2014年のブラジル・ワールドカップ終了後、財政難のロシア協会はカペッロ氏への高額報酬を支払えなくなり、数ヵ月分に上る賃金未払いを起した。おそらくはV.プーチン大統領直々の依頼があったと思われるが、大富豪のウスマノフ氏が今年2月に400万ユーロの資金提供を申し出て(6月には300万ユーロを追加)、協会はどうにか未払いを解消した。

計700万ユーロの資金は、当初は「低利の融資」とされていたのだが、7月にカペッロ解任が決まった直後、ウスマノフ氏は豪気にも、その返済を協会に求めない考えを明らかにした。ウスマノフ氏いわく、「私はその資金をN.トルスティフ前会長の時代に貸し付けた。トルスティフ会長が解任されて協会の指導部が代わったということは、返済を求める相手がいなくなったということだ。協会は自らの仕事に専念し、ロシアで開催されるワールドカップの準備に万全を期してほしい。」

そして今回、カペッロを解任するに当たって発生する違約金の600万ユーロも、ウスマノフ氏が負担することになったわけである。なお、コーチ陣への支払も200万ユーロあるということだ。かくして、カペッロ問題を解決するために、つごう1500万ユーロをウスマノフ氏がポケットマネーで賄う方向になったわけだ。何とも太っ腹な話である。

今回の代表監督の人事も含め、ロシア・サッカー界では最近大きな動きが相次いでいるが、私の見るところ、それらはすべて同一の方向性に貫かれている。それはすなわち、2018年のワールドカップ・ロシア大会を成功させるために、クレムリン主導でサッカー界の体制を立て直し、その際にロシア自身のポテンシャルに軸足を置く、ということであろう。現に、新たな代表監督には、ロシア人が就任することが確実視されている。また、先日開幕したロシア・プレミアリーグで、外国人プレーヤーの上限が7人から6人に減らされたのも(これもクレムリンの介入で急に決まった)、ロシア人プレーヤーに出場機会を与え、代表強化に繋げるためと言われている。

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©Michitaka Hattori

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