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【無料記事】FIFAも注目する『ママズ・リーグ』とは? 取材先のグアムで見つけた、豊かな光景

とはいえ、今予選のグアムの躍進は決してフロックの連続に依るものではなく、十分に納得できるプロセスによるものであった。そのプロセスを解き明かすのが、今回のグアム取材でのミッション。詳しい内容については、来年1月に発売予定の『アジア・フットボール批評』をご覧いただくとして、ここでは(いささか前置きが長くなったが)、今回のグアム取材で個人的に心に響いいたエピソードを紹介したい。

グアムのリーグ戦は、男子、女子、アンダーカテゴリーを含めて、GFA(グアムサッカー協会)の敷地内にあるピッチ(人工芝2面、天然芝1面)で行われる。日曜日に取材で訪れてみると、何やらユニークなゲームが行われていた。天然芝をハーフコートにして、7人制の女子サッカーが行われているのだが、プレーヤーの半分くらいはどう見てもアスリートの体型ではない。中には「チャモロ人の肝っ玉かあさん」みたいな体格の女性も何人かいて、プレーのレベルもかなりばらつきがあるものの、みんな真剣にボールを追いかけている。いったい、これは何の試合なのだろう?

「これはママズ・リーグだよ」と教えてくれたのは、今回の取材で知り合ったGFAのゼネラル・セクレタリー、ダレン・ティさんである。要するに「ママさんサッカー」のようだが、協会主催できちんとリーグ戦が行われていることに、まず新鮮な驚きを覚える。ダレンさんはさらにこう語る。

「ママズ・リーグは2年前にスタートした。最初は8チームだったが、今では17チームにまで増えた。春と秋に2カ月ずつリーグ戦を行う。試合形式は10分×4本のクオーター制で、交代も自由だから初心者でも負担を感じることなくプレーできるんだ。土曜日に子供たちの試合があって、日曜日にママの試合があるから、家庭ではサッカーが共通の話題になる。実はFIFAも、このママズ・リーグに注目しているんだ」

ここでFIFAの名前が出てくるのには理由がある。GFAはFIFAの『ゴールプロジェクト』という助成を受けて、グラウンドや照明灯やオフィスを建設することができた。そのため、何かしらの成果をFIFAに提示する必要があったのである。そこで出てきたアイデアが、ママズ・リーグだった。ちなみに試合を見る限り、20代から30代の若い母親が中心だが、ダレンさんによれば「孫がいる選手もいる」とのことだ。

人口も面積も資源も限られたグアムにおいて、GFAが解決しなければならない問題はまだまだ多い。国内リーグも観戦したが、競技レベルは日本の地域リーグよりも劣るアマチュアリーグで、サッカーだけで生計を立てられるプレーヤーは島内では皆無だ。しかし、グアムのママさんたちが生き生きとした表情でボールを追いかけ、それを見ている夫や子供たちが笑顔で声援を送っている光景は、かの地のビーチ以上に眩しいものに感じられた。

サッカーが大好きな女性が結婚し、妊娠と出産と育児を終えてからも心置きなくサッカーが楽しめる環境が、この島には確実に存在している。FIFAが注目するのも当然だろう。と同時に、日本のサッカーファンにも、グアムサッカーの奥深さを伝えなければとあらためて決意した次第。それまで何となく「サッカー不毛の地」と思っていたグアムであったが、なかなかどうして、そこには豊かなで幸せなサッカーの風景が広がっていた。

<この稿、了>

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