宇都宮徹壱ウェブマガジン

【新連載】中村慎太郎の「百年構想の向こう側へ」 vol.1 サポーターはJリーグを滅ぼそうとしているのか?

■サポーター対Jリーグという構図

サポーターは、各クラブを直接支持・支援する人たちであって、Jリーグ自体を応援している人はあまり多くない。というより、ほとんど見たことがない。審判のファンや、フェロー諸島代表チームのサポーターなどのコアな人は見たことがあるが、Jリーグ自体を応援している人を見た記憶がないのだ。

もちろん、明言しないだけで支持している人もいるだろうと思う。しかし、Jリーグについての批評や、より低レベルな不平不満というような類いのものを見る機会のほうが圧倒的に多いのである。例えばJ’s Goalの突然の廃止、あるいは突然の復活、公式Twitterでの告知方法、J2プレーオフの決勝会場の選定など、Jリーグが行うありとあらゆることがまな板の上に並べられ、断罪されていった。そういえばハロウィン事件なんてのもあったなぁ……。そして、最もよく目にしたのが、2ステージ制とポストシーズンに行われたCS(チャンピオンシップ)に対する批評・非難である。

目にしたどころの騒ぎではなかった。酷いときではほとんど毎日、誰かしらが2ステージ制についての不満を表明しているのを見かけた。初期の頃から多く見たのは、古参サポーターによる根拠ある主張で、拝聴する価値の高いものも多かった。一方で、シーズンが始まった頃からは、単なる不平不満や、Jリーグ関係者の人格を否定するだけの子供じみた書き込みも増えてきた(もっとも、どういう人が言っているのかとtweetを分析してみると、高校生や大学生の「本当の子供」であることも多かった。校長先生の写真に落書きするのと似たノリなのかもしれない)。

ともかく、雨後の竹の子のように次々湧いてくる不平不満を眺めるのには正直言って辟易した。どうせ今日も誰かが不満を言っているのだろうと思うと何だかうんざりしてくる。「2ステージ制にもいいところはあるし、始まったからには楽しめばいいじゃないか」などと呟こうものなら、Jリーグがいかに邪悪な組織であり、私利私欲のためにサポーターをないがしろにしているという類いのレスが付く。ある程度根拠がある場合もあるし、妄想に近い場合もあったが、いずれにせよ愉快なものではない。Twitterを覗きに行く機会も減っていった。

そして、ぼくは思った。この事態は「すべてのジャンルはマニアが潰す」ではないだろうか。この言葉は、2012年に新日本プロレスを買収した木谷高明氏が発言したものである。そう強く感じたのが、CSのテレビ放映が行われた後であった。決勝戦の第一試合は視聴率7.6%、第二試合は10.4%と十分な結果を出した。特に広島地区では35.1%という驚異的な数字を叩き出した。2ステージ制に移行すると若干の無理は出るが、地上波での露出を増やし、潜在的なスポンサーや新規顧客にPRするというJリーグの目算は、成功したとみることが出来る。

Jリーグの認知が広がっていくのは、各クラブのサポーターにとって喜ばしいことのはずである。しかし、「2ステージ制の失敗を祈っていたのに残念」とか「チェアマンが嬉しそうにしているのが気にくわない」などという趣旨の発言も見られた。サポーター達はJリーグの成功について冷ややかであった。もし、2ステージ制が大失敗に終わっていたらどうなっていただろうか。考えるだけでも恐ろしいが、Jリーグが大幅に規模を縮小することへと繋がっていた可能性は十分にあるし、近い将来に地方の小さなクラブはいくつか消滅したり、プロクラブとして続けられなくなったりしたかもしれない。一度そういう流れが出来てしまうと立て直すのは至難の業となる。

そして、そんな大悲劇が訪れた時に「だからいったんだよJリーグ。ざまーみろ!」とでも言いたいのだろうか。そうでもしないと鬱憤が晴れることがないほど、サポーター界隈にはJリーグに対する不信が募っていた。サポーターのJリーグに対するわだかまりは決して晴れることもなく、翌年も翌々年も続くのだろう。

「サポーターはJリーグを滅ぼそうとしている」

大げさに言うとこういう図式になってしまっているのである。こうなってくると、全ての問題がこじれていく。放っておいて関係が良くなっていくようなことはないように思う。ならばどうすればいいのだろうか。

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