宇都宮徹壱ウェブマガジン

【新連載】中村慎太郎の「百年構想の向こう側へ」 vol.1 サポーターはJリーグを滅ぼそうとしているのか?

■Jリーグとサポーターのディスコミュニケーション

とはいっても、ぼくはサポーターサイドを強く責める気にはなれない。例えばTwitterで交流したある浦和レッズサポーターは、決して理不尽な理由で2ステージ制には反対していなかった。彼は、かつてのJリーグを心底愛していて、それが人生の中で最も重要なものの一つであったようなのだ。しかし、人生を懸けて没入していたものが、突然、改変されてしまったのである。短いやり取りの中にも、そのサポーターの苦悩が深く感じ取れて、こちらまで苦しくなってきた。

確かに、一年をかけてリーグ戦を戦い抜いていくのは、一見さんにはとっつきづらいかもしれない。しかし、シーズン前の補強や練習風景から、1シーズンを通して応援していくのは非常に重厚な楽しみがあるのだという。クラブの浮沈と共に、自らの感情も浮沈していく。そんな生活が何年も続く。古参のサポーターにとっては、20年以上も続いてきたわけだから、それはもうその人の人生そのものなのである。その人生のあり方を、いきなり他人に狂わされたわけだから、それは本当に苦しいことだし、怒らないほうがどうかしているとさえ思う。

例えば、自分の生まれ育った街がダムの底に沈んだり、核廃棄物の処理場として二度と立ち入れなくなったりしたとしたら、経済的な整合性がとれていると頭で理解していたとしても、個人の苦しみは決して晴れることはないだろう。そういう事情に似ていると思う。

そこで問いたい。

「Jリーグさん、サポーターの皆さん、このままでいいんですか?」

この稿でぼくが言いたいのは、この一言に集約される。Jリーグはサポーターなしでは成立しないし、サポーターが応援するクラブもJリーグがなければ成り立たない。本来は共存共栄の関係にあるはずだし、そうあったほうがはるかに快適に日々を過ごせるし、物事を良くしていくための方策もスムーズに運ぶことは想像に難くない。

具体的に言い直そう。Jリーグが何かアクションを起こした時に、「Jリーグは悪である」という前提で批判、非難、不平不満を述べる人がいる。一方で、Jリーグの施策の背景にある事情や意図を理解しようと努力する人もいる。この割合がどう変わっていくかが重要なのである。アンチJリーグのサポーターばかりになると、地獄の光景のようになってしまうが、要するに今はその地獄に近い状態だと思っている。

一方で、後者の理性的なサポーターが増えてくると有意義な議論もしやすくなってくるのではないだろうか。後者の代表格として、ジェフ千葉を愛するINUUNITED(いぬゆな)さんというブロガーで、Jリーグの諸問題について、様々な角度から考察したBlog記事を残している。

例)
J2サポがいまさら考える『2ステージ制導入の理由』と『的外れな批判』について(http://inuunited.com/first-toka-dodemoiidesu/
2015年J1昇格プレーオフ決勝開催地がC大阪のホームになった理由を考察する
http://inuunited.com/why-nagai-people/

ただ、1つ問題があって、INUUNITED(いぬゆな)氏のBlog記事は非常に優れていると思うのだが、推測の範囲を出ることが出来ない考察もある。それは、そもそも判断材料となる情報が少なかったり、自分で集める必要があったりするためである。そのあたりの事情をJリーグ側がわかるように説明してくれたら、どれだけ助かるだろうか。

しかし、Jリーグは、サポーター向けの告知はあまり得意ではないようだ。事あるごとに、サポーターの神経を逆なですることになり、何もかもが激しく炎上していく。サポーターとの付き合い方についてのノウハウが集積されていないのかもしれない。

例えば、FC東京の場合でも、詳細は忘れたが、サポーターにとって不便な時間帯に試合が行われることがあった。しかし、同時に何故その時間にせざるを得なかったのかについての事情が告知され、東京サポーターは「ならば仕方がない」とクラブへの支持を表明したのである。不満を言う人はぼくの知っている範囲ではいなかった。

ほんのちょっとのさじ加減で、何とか出来ることもあるのだ。Jリーグの中の仕組みがどうなっているのかは部外者にはさっぱりわからない。コンプライアンスの問題で言えないことがあったり、単に事情を説明する習慣がないだけだったり、あるいはかつて事情を説明したことで問題が生じたことがあったりするのかもしれない。ただ、どんな事情なのかわからない以上、現実よりも悪意に捉える人が出てくるのは当たり前だし、ましてや、ただでさえJリーグに対する不信感が高まっている状況であれば尚更である。

こんな状況だからこそ言いたい!! Jリーグとサポーターは敵対するべきではないし、時には協力し合って、日本にサッカーを根付かせていくべきだ。

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