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【無料記事】岡田武史オーナー、2年目の正念場 百年構想クラブとなったFC今治の本気度

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2月23日、FC今治は東京武蔵野シティFCとともにJリーグ百年構想クラブに認定された。事前に情報はつかんでいたが、19日に今治で方針発表会を取材してきたばかりなので、非常に感慨深いものがある。すでにスポナビではこのようなコラムを発表しているが、本稿では百年構想クラブ認定を受けての今季の今治の展望について考えてみたい。

岡田武史氏がクラブオーナーとなって2年目。話題性ばかりが先行していた昨年とくらべて、今年の今治は「地に足が着いた」印象を受けた。理由はいくつか考えられる。まず岡田オーナー自身が周囲をよく見えるようになったこと、一筋縄ではいかない地域リーグを昨シーズンに経験したこと、そして今季もJFLに昇格できずに足踏みしてしまうと「経営規模縮小もあり得る」(岡田オーナー)こと。クラブ運営に一定の落ち着きと成長が感じられるようになった一方、昇格へのプレッシャーは昨シーズン以上に高まったと言えるだろう。

もっともクラブを取り巻く話題は、依然として景気の良いものばかり。トップパートナーである デロイト トーマツ コンサルティング合同会社をはじめ、今季もそうそうたる企業名がスポンサーに名を連ねている。懸案だったスタジアムについても、来年の夏には5000人収容のサッカー専用スタジアムが完成する(J3仕様)。中国スーパーリーグの杭州緑城との提携も新たなビジネスに発展することが予想され、グローバル事業は重要なクラブ収入源のひとつとなっている(ちなみに今季の予算は3億円弱で、提携によって9000万円を上乗せすることができたそうだ)。

あまり報道されていないが、今季からユニフォームサプライヤーはアディダスになった。実はアディダス以外にもう1社、猛烈に今治にアプローチしたスポーツブランドがあったのだが、そのメーカーがサッカーに進出して間もないこと、そしてパートナー企業LDHの「顔」であるEXILEがアディダスと契約していることが決め手となったという。これまた、およそ地域リーグのクラブとは思えない話題だが、それくらいFC今治というブランドの価値はまだまだ持続しているということである。

このように、クラブ経営に関しては順調そのものといってよい今治。それだけに、トップチームに寄せられる期待とのしかかる重圧は尋常ではない。昨シーズンのメンバー29名のうち、継続したのはわずかに12名。17名が退団し、大卒と高卒を中心に16名を新たに迎え入れた。大幅な入れ替えを断行した理由について、岡田オーナーは「平均レベルを上げていかなければいけない。そのためには力だけでなく野心を持ったやつを入れたかった」と語っている。昨シーズンの重要な場面で露呈した「勝負弱さ」を克服したいという思いが根底にあったことは間違いないだろう。

一方で新加入選手が、すぐに岡田メソッドに順応できるかという不安もないわけではない。だが岡田オーナーは「2年目の選手がいるので、思っていたよりも浸透している」と実に楽観的だ。その根底には、昨年までメソッド事業部長を務めていた吉武博文氏が新監督となったことが大きいようだ。U-17ワールドカップ2大会で、ベスト8とベスト16進出を果たした育成の名将が、今季から四国リーグのクラブを率いるというのも何だかすごい話だが、ここにもクラブ側の(そして岡田オーナーの)本気度が感じられる。

ところで今季の四国リーグは、ひとつ重要な変化があった。昨シーズン、今治と優勝争いを演じていた高知の2強、アイゴッソ高知と高知UトラスターFCのトップチームが合併し、新たに『高知ユナイテッドSC』となって将来のJ3入りを目指すことになったのである。これで今治のライバルは1チームに絞られたように思われるかもしれないが(私も最初はそう思っていた)、トラスターの残留選手と高知大の選手による新チーム(『高知大クラブ』となる模様)が四国リーグに参戦する。両者は形の上では別組織だが、トップチームとセカンドチームのように見えてしまうのは私だけではあるまい。リーグはよく許可したものだと思うが、いずれにせよ今治対高知の2強という構図は今季も変わらないだろう。

そんな感じで、4月から開幕する四国リーグのことをあれこれ考えていたらこんなニュースが飛び込んできて、いささか驚いている。「いやあ、それはないだろう」というのが私の見立てだが、もし岡田オーナーがこのオファーを受け入れたら、クラブ運営に少なからぬ影響を及ぼすことは必至だ。いずれにせよFC今治というクラブは、単に地域リーグの枠にはとどまらない、さまざまな話題を今季も提供してくれそうである。

【付記】
その後、岡田オーナーに関する情報を探ってみたのだが、本稿を書いている25日の時点で、JFA副会長就任の可能性は濃厚であるようだ。オファーを本当に受けたならば、スポンサーや自治体へはどのように説明するのか非常に気になるところ。この件、引き続き注視していきたい。

<この稿、了>

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