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【無料記事】市川大祐、新天地での居場所  今日の現場から(2016年3月27日@ムサリク)

代表戦のためJ1のなかったウィークエンド、久々にJFLの試合を取材してきた。カードは3月27日に武蔵野陸上競技場(通称ムサリク)で行われた、東京武蔵野シティFC対ヴァンラーレ八戸。東京の桜は21日に開花宣言となったが、武蔵野の桜はようやく五分咲きといったところか。

さっそく八戸の名物サポ、ティガーマスクさんと再会。すると「武蔵野のスタッフの人から『今日の応援は静かにお願いします』と言われたんですけど、何かあったんですかね?」と困惑していた。おそらく2週間前の『居酒屋ムサリク』で、近隣から苦情が来たのだろう。私も参加していただけに、ちょっと申し訳ない気持ちになった。

さて八戸といえば、元日本代表の市川大祐の加入が話題になった。彼のプレーを見るのは、FC今治に所属していた昨年11月の地域決勝以来である。清水時代から愛着のある背番号25を付けた市川は、右サイドバックのポジションでスタメン出場。しかしこの日は、持ち前の攻撃参加やピンポイントクロスを封印し、全体のバランスを見ながら味方の危機を未然に防ぐことに注力していた。その理由について、当人はこう説明する。

「今日は(失点)ゼロで進めるというのを第一に考えていました。どこでボールが落ち着くかわからなかったし、リスクをかけて前をとるのも怖かった。もちろんチャンスは狙っていましたけど、前で(ボールが)収まってオーバーラップするタイミングはなかったですね。こういう戦い方で、勝ち点をしっかり積み重ねるのは、JFLの戦い方としてはありかなと思っています」

試合は、後半28分の村上聖弥によるミドルが唯一のゴールとなり、アウエーの八戸が1−0で勝利。試合後、市川はスタンドに深々と一礼すると、ファンから求められるままにサインに応じていた(古巣である清水のサポーターも何人か来ていた)。その丁寧なファンサービスぶりは、ベテランとなった今も変わらない。

現在の自身の役割について問うと「自分が引っ張るというよりも、チームがやりやすい方向になるように、気づいたことをアドバイスする感じですかね」と謙虚に語る。八戸では唯一の元Jリーガーにして代表経験者(しかもワールドカップメンバー)だが、チーム内では「もっぱら、いじられ役です(笑)」。6つのクラブと5つのカテゴリーを渡り歩き、今年の5月14日で36歳となる市川。新天地での居場所は、すでに見つかったようである。

<この稿、了>

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