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【無料記事】2020年に向けて動き出したブラサカ日本代表 高田新監督が目指す「新たな方向性」とは何か

リオデジャネイロへの道を絶たれた「日本代表」は、なでしこジャパンだけではない。昨年9月に東京・代々木で行われたIBSAアジア選手権で、4位の成績に終わったブラインドサッカー日本代表。同大会はリオ・パラリンピックのアジア予選を兼ねており、日本はまたしても悲願の出場権獲得を逃してしまった(アジア代表となったのは、1位のイランと2位の中国)。私は日本代表の取材が国外であったため、残念ながらこの大会の結果しか知らない。それでも帰国後、あれほど盛り上がっていたブラサカ人気が一挙にしぼんでしまったように感じられて、一抹の不安を覚えたものだ。

その後、JBFA(日本ブラインドサッカー協会)は代表人事を刷新。監督には、GKコーチだった高田敏志氏が就任した。そして落胆のアジア選手権から半年後の3月21日、ついに「新しいブラサカ日本代表がベールを脱ぐ」ということで、私もその場に立ち会わせていただいた。舞台は、フットメッセ大宮で毎年開催されているノーマライゼーションカップ。今年の対戦相手は。アジア選手権で3位となった韓国代表である。会場に到着すると、JBFA事務局長の松崎英吾さんとばったり再会。「これまでにない戦いをお見せできると思いますよ」との言葉に、がぜん期待感が高まる。

実は今回、試合前に気になっていたことがあった。それは、リオへの切符を得られなかったことが影響して、観客数が減ってしまっているのではないかという危惧である。しかし会場に設営されたスタンドには、例年と変わらないくらいの観客が訪れていて、密かに安堵する(主催者側の発表では、観客数は553人)。これまでのJBFAの活動の積み重ねに加え、4年後の東京パラリンピック開催の追い風もあり、日本のブラサカ人気は依然として高止まりしているように感じられた。

試合は、前半7分にいきなり動く。黒田智成がファウルを受けて日本がPKを得ると、新たに主将に任命された川村怜がこれを冷静に決めて日本が先制(当人は「絶対に決める自信があった」と頼もしいコメント)。しかし韓国も負けてはいない。後半6分にはFKからキム・キョンホが1点を返し、さらに第2PKを獲得。しかしこれはGK佐藤大介がファインセーブで防いだ。その後も激しい攻防が続いたが、1−1のドローでタイムアップ。試合後の表彰式では、MVPにキム・キョンホが、MIPには川村が選ばれた。

「(試合結果については)サッカーは簡単じゃない、というのが率直な印象ですね。(このチームのスタイルは)全員で攻撃に参加して、DFも高い位置でボールを奪うこと。やろうとしていることは見せられたと思います。相手との力関係を考えれば、3点は取れると思っていました」

新チームの方針について、高田監督は試合後の囲み取材で「攻撃サッカー」という新たな方向性を強調していた。それも「見ていて面白いサッカー。『このチームだったら中国からゴールを奪えそう』みたいなワクワク感ですかね」というから、かなり野心的であると言える。続きを聞こう。

「これまでのような『ディフェンスを固めてからカウンター』ではなく、ある程度リスクを背負いながら攻撃を仕掛ける。幅と深さを活かしながら、ポゼッションを高めてボールを速く動かす。パスのほうが選手より速いですからね。ただし、パスサッカーを目指しているわけでもない。われわれはあくまで『ブラサカの常識』ではなく『サッカーの常識』でやっています」

だからといって、守備を疎かにするつもりもない。「僕ももともとGKコーチでしたからね(笑)」と高田監督。ところでGKといえば、この試合では特徴的なシーンがあった。GKからのスローインの際、フィールドプレーヤー2〜3人が、壁際に並んでボールを受けようとしていたのである。これについても、高田監督は独自の方針があることを明かした。

「意図としては、ボールロストをできるだけなくすためです。1人がボールを収められなくても、その周りに2人いればフォローできるし、バックパスもできる。こういうやり方をやっているのは、日本だけでしょうね」

リスクを背負いながらの攻撃サッカー、ポゼッションとパスの重視、そしてボールロストの削減。高田監督の目指すサッカーは、これまでの日本のブラサカのスタイルに、大胆な改革を促そうとしている。それはもちろん個人の志向もあるだろうが、「東京パラリンピックまでの4年間」という担保があることも見逃せない。リオに行けなかったのは確かに残念だが、逆に考えればアジア予選のことを考えず、いち早く「世界を意識した」チーム改革に着手できるメリットもある。私は高田氏の「切れ者経営者」としての顔も知っているので、この発想の転換には大いに納得させられた次第だ。

いずれにせよ、新たな方向性を示したブラサカ日本代表の片鱗を見ることができたのは収穫だった。4年という月日は長いようで短い。2020年に向けて、意欲的な第一歩を印したブラサカ日本代表を、引き続き注目していくことにしたい。

<この稿、了>

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