宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】「安全地帯」で暮らす私たちにできることは何か?  ちょんまげ隊長ツンさんからサッカーファミリーへの提言

このたびの地震で被災された方に、心よりお見舞い申し上げます。

 4月15日から熊本を中心に断続的に続く地震の影響は、当然ながらサッカー界にも影響を及ぼしている。Jリーグは16日と17日に予定されていた6試合の開催中止を発表。他の開催地では募金活動が行われ、Jリーグもネットによる義援金募金実施を呼びかけている。

 さて「安全な場所」(あえて、こう書かせていただく)で静かな日常生活を送っているわれわれは、九州で大変な思いをしているサッカーファミリーに対して何をすべきなのだろうか。募金以外にできることはないのだろうか。そこで徹マガでは今回、タグマ!版の速報性を活かして号外を出すことにした。ご登場いただくのは、徹マガ会員の皆さんにはお馴染みのちょんまげ隊長ツンさんである。

 周知のとおりツンさんは、5年前の東日本大震災発生時より、ユニークかつ継続的な復興支援活動を続けており、さらには広島での土砂災害(14年)や常総での水害(15年)でも被災地を訪れている。私が知る限り、日本のサッカー界隈で被災地のニーズに最も精通しているのは、この人をおいて他にはいないだろう。

 そこでツンさんには今回、「安全地帯」で暮らす私たちにできること、についてアドバイスをいただいき、徹マガ会員の皆さんとサッカーファミリーの皆さんにシェアすることにしたい。なお本稿は、ツンさんのFacebookへの投稿と、ご本人への電話取材をベースにしている。

(1)TVの映像が「すべて」ではない 

大変な場所の映像が繰り返し流れていますが、それがすべてではないです。広島や常総では、車で少し走ると、TVとはまったく違った日常的な風景がありました。熊本の友人に電話しても「熊本全域が怖い状況というわけではない」と聞いていますし、SNSでも「こっちは大丈夫」と発信している人もいます。TVのセンセーショナルな映像だけでなく、さまざまな情報を多角的に集めて冷静に判断することが大切だと思います(逆にTVには出ないけど、あなたの支援を待っている場所もあると思います)。

 (2)支援物資はむやみに送らない方がいい

  被災地のニーズは、刻一刻と変化します。広島では「タオルがほしい」という情報が全国に拡散して、結果としてタオルが大量に余ってしまったということが起こっています。でも、だからと言って「支援するな」と言うわけではないです。相手の顔が見える関係性であれば、不足しているものを直接送って喜ばれる確率は高い。逆に感情的かつ一方的に物資を送ってしまうと、かえって現地の混乱を招くことがあるということは、頭の片隅に入れておいていただきたいです。

(3)情報の過多は混乱の原因

(2)と関連する話ですが、現地からの叫びをSNSで感情的に拡散するのは控えた方がいいと思います。その情報がひとり歩きしている間に、現地ではすでに解決されている事が往々にしてありますから。それからデマの拡散にも加担すべきではないですね。何となくの「いい話」だけでなく、根も葉もない誤報が拡散されてしまうと、被災地の人たちに不必要な負荷をかけることになりますから。こういう大変な時だからこそ、僕らは安易に「いいね!」や「RT」を押すのではなく、情報ソースをしっかり精査するべきではないでしょうか。

 (4)避難所は半年から1年は継続する

 TVで話題になるのは1カ月くらいですが、被災地は長期戦になります。今回の地震は被害が甚大ですから、1年くらいは続くと思います。ですから「これは長期戦である」という心構えを共有する必要があります。と同時に、ここでJリーグファンの強みを活かすことができると、僕は考えています。

 皆さん、アウエーで九州に行きますよね。そこで「ついでに」ボランティアをするのは、ぜんぜんアリです。47都道府県に社会福祉協議会(社協)というのがあって、何か災害があれば必ずそこにボランティアセンターができます。当日の朝に登録すれば、たとえば試合の前の日や次の日にボランティア活動をして帰ることもできるんです。社協は、ボランティアをしたい人とボランティアを求めている人をマッチングする組織ですから、まずは自分で調べて連絡してみてください。

 「1日だけのボランティア」でも、ぜんぜんOK。「帰りの飛行機の時間があるので15時まで」でも、ぜんぜんOK。むしろ、そうした活動が続いていくことが重要であって、Jクラブのサポーターが入れ替わりで現地のお手伝いをすることが、継続的な支援につながっていくと僕は思います。

 (5)イベントは自粛しない方がいい

 イベントを自粛しても、それで被災地が救われるわけではありません。むしろイベントで募金してもらうとか、Jリーグだったら被災地を激励する横断幕を掲げるとか、そういった支援をすることのほうが大事だと思います。東北の被災地でも、他のサポーターの横断幕に勇気づけられた人たちが何人もいますから。

 (6)大切なのは「関心を持つ」こと。できれば長く!

 残念ながら、日本は自然災害が多い国であり、毎年のようにどこかしらで避難所ができます。どこに住んでいても、決して他人事ではないんです。今回の地震に関心を持つことは、いつか自分自身が被災者となったときの心の準備になると思うんですよね。普段から被災地に対して想像をめぐらせることは、回りまわって自分に返ってきます。自分や自分の家族のことを思えば、今回の地震も決して無関心ではいられないと思います。

 最後に、被災地の皆さんと、それ以外のサッカーファミリーの皆さんにメッセージがあります。

 まず、被災地の皆さん。あまり頑張らないでください。昨日のニュースで、コンクリートのブロックを運んでいるおじいさんの映像を見ました。そんなことをして、腰を痛めたり足をくじいたりするリスクのほうが、僕は怖いです。日本人は勤勉だから、つい何でも自分でやろうとするけれど、自分の具合が悪くなってしまったら元も子もないです。助けてくれる人はいるんです。少しお待たせするかもすしれませんが、支援の輪は必ず広がります。

 それから、サッカーファミリーの皆さん。これは長期戦です。今すぐ被災地に行くことが、すべてではありません。まずは募金するでもいいし、九州でのアウエー戦に合わせてボランティアをするでもいいし、そこで観光してお金を落とすでもいい。とにかく、関心を持ち続けることが大事だと思います。

 それと募金に関してですが、たとえば日本赤十字社などの大きな団体への募金は、被災者へ分配されるのにだいたい半年はかかると聞きます。確かに信頼できる窓口ではあるんですが、現地でアクティブに活動しているNPO団体に直接寄付するのも、僕はぜんぜんアリだと思っています。それが彼らの食費となったとしても、自分たちの代わりに活動してくれるんだから、別にいいじゃないですか。

 僕は「いろんな復興支援のあり方があっていい」という信念で、ちょんまげ姿での活動を続けています。募金の送り先についても「日赤一択」だけでなく、もっといろいろあっていい。それぞれが情報を精査して、納得のいく形で募金していただければと思っています。

<この稿、了>

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