宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】献本御礼『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』飯尾篤史著

同業者の飯尾篤史さんから献本いただいた。飯尾さんはサッカーダイジェストの出身で、私の連載の最初の担当者であった。4年前にフリーランスになり、本書がデビュー作となる。以前、「中村憲剛の本を書いている」と聞いてはいたが、まず装丁がしっかりしていることに思わず唸ってしまった。撮影が近藤篤さん、装丁が岡孝治さんという、講談社らしい盤石の布陣。ブックライターのひとりとして、密やかな羨望を覚える。

日本代表クラスのノンフィクションの場合、ワールドカップイヤー(それも本大会直前)に出版されることが多い。実は本書も、憲剛が2014年のワールドカップ・ブラジル大会の最終メンバー23名に選ばれることを見越して企画されたという。しかし結果は「落選」。これにより憲剛本の出版は大きく遅れることになったわけだが、エピローグが「落選」以後に再設定されたのは、本書にとって幸運だったように思う。ワールドカップが終わっても、当然ながらサッカーは続く。その後の葛藤と奮起を描ききったことで、フットボーラー中村憲剛のさらなる奥行きを感じさせる仕上がりとなった。

もうひとつ「いいね!」と思ったのが、著者の名前が明記されていること。当たり前のように思われるかもしれないが、こうした選手ものの場合、実績のある書き手でもゴーストライター扱いされることが少なくないのが実情。しかし本書は、憲剛の名前と顔を前面に押し出しつつ、書き手に対してもきちんとリスペクトしている。選手ほど有名でなくても、書き手には書き手の矜持がある。今後、このスタイルがスタンダードとなることを願う次第。川崎サポでなくても、十分に楽しめそうな一冊だ。定価1500円+税。

【オススメ度】☆☆☆☆★

<この稿、了>

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ