宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】日立台での『三百六十五歩のマーチ』 今日の現場から(2016年5月22日@日立台)

地震発生から1カ月あまり。先週、ようやくJ2リーグの復帰を果たしたロアッソ熊本が、日立柏サッカー場を借りて水戸ホーリーホックと地震後初のホームゲームを行うということで取材に行ってきた。結果は水戸が1−0で勝利。当日の模様についてはスポーツナビでコラムを出す予定なので、今回は個人的に感銘を受けたことについて短めに記すことにしたい。

試合前、実に素敵なセレモニーがあった。熊本出身の国民的歌手、「チータ」こと水前寺清子さんが日立台に降臨したのである。実はチータは、『HIKARI〜輝く未来へ〜』という応援イメージソングをプレゼントしたことからクラブとの間に交流が生まれ、「熊本地震復興支援マッチ」と銘打たれた今回のゲームにも招かれることとなった。

当日はロアッソの赤いレプリカを全身に包んで気合十分。くまモン、ロアッソくん、ひごまる(熊本城築城400年祭PRキャラクター)を引き連れてピッチに立ったチータは、「私は無口なもので(笑)」と前置きして、いきなりマイク片手に歌い出す。曲は彼女の代表作、『三百六十五歩のマーチ』であった。

あなたの付けた足あとにゃ

きれいな花が咲くでしょう

腕を振って足を上げて ワンツー! ワンツー!

休まないで歩け

正直、チータの声量は、全盛期と比べるとかなり落ちていた。無理もない。何しろ私が生まれる前年に、紅白初出場を果たしている人なのだから。それでも彼女は、日立台のピッチを飛び跳ねながら、そしてスタンドに手拍子を要求しながら、笑顔を絶やさず懸命に歌っていた。加えて歌詞の内容と、復興への道のりとが見事に重なっていたものだから、私も目頭を熱くしながらシャッターを切っていた次第である。

歌い終わったチータが、最後に語った言葉が、これまた印象的であった。「皆さん、今日は暑いですから、こまめに水分を摂ってくださいね」。最後まで、お客さんへの気配りを忘れない。プロフェッショナルなエンタテイナーの規範がそこにはあった。熊本のサポーターはもちろん、水戸のサポーターからも、盛大な「チータ!」コールが発せられたことは言うまでもない。

この日は試合会場で被災地への募金活動が行われ、試合前には地震の犠牲者への黙祷も捧げられた。しかし単なる追悼だけでなく、「ワンツー! ワンツー!」とサポートチームの垣根を超えて大合唱できるところに、Jリーグの素晴らしさがある。試合後、益城町出身の熊本サポは、晴れやかな顔でこう打ち明けてくれた。「結果は残念でしたけど、水戸と柏の皆さんには本当に感謝しています。ますますJリーグが好きになりました」。まったくもって同感である。これだからJリーグの取材はやめられない。

<この稿、了>

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