宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】EURO 2016 取材を始めるにあたっての前口上 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』第1回 6月11日(土)@パリ

■フランスを目指した表向きの理由は「特別な大会」であること

 6月11日の13時30分、パリ・シャルル・ド・ゴール空港に到着。空港内ではマシンガンを持った警備員の姿を時おり見かけた以外、さほど物々しい雰囲気は感じられなかった。懸念されていた交通機関のストライキも、何とか回避されたようで、(列車内はすし詰め状態だったが)無事にパリの宿に到着。その間、ちょっとしたトラブルはあったものの(詳しくは明日あらためて)、久々のパリの「入り方」はまずまずと言ってよいだろう。

 6月10日に、パリ郊外のスタッド・ドゥ・フランスで開幕したUEFA EURO 2016。だが、現地で取材する日本の同業者は、実のところ極めて少ない。理由は大きく2つあって、UEFAのパス取得の難易度が高いこと、そしてなかなか仕事にならないことが挙げられる。前者については、日本在住のジャーナリストはUEFA主催の大会で実績を作るのが難しい(FIFAとはやAFCとは違った厳しい基準がある)。そして後者については、いくら欧州ナンバーワンを決める大会とはいえ、日本代表が出場しない大会に関心を持つメディアは非常に限られており、取材できたとしても発表する媒体は非常に限られる。つまりコストをかけたわりには実入りが少ない事態となる可能性が高いのである。

 私自身、今回は取材パスを持っていないし、購入できたチケットも2枚だけ(しかも「ロシア対スロバキア」「ルーマニア対アルバニア」という、実に渋いカードばかりだ)。そんな私に「現地から何か書いてください」と言ってくれるメディアは、ごくごくわずか。現状では大赤字になること必至である。ではなぜ、そうしたリスクを承知でフランスに向かうことを決断したのか。それは表と裏、ふたつの理由がある。当連載のテーマにも関わることなので、以下「前口上」として説明することにしたい。

 まず、表向きの理由。これは、今回のユーロが「特別な大会である」ことに起因する。1カ国開催(もしくは2カ国共催)での最後の大会となること(次回からは13カ国での分散開催となる)。開催国が私にとって思い出深いフランスであること(1998年のワールドカップ・フランス大会は私が初めて現地体験したワールドカップであった)。今大会から出場国が24に拡大され、これまで本大会に縁がなかった国々も出場すること。そして、昨年にフランスとベルギーで連続して起こったテロ事件後、初めてヨーロッパで開催される大規模なスポーツ大会であること。こうして考えると、EURO 2016はさまざまな意味で「特別な大会」であり、たとえパスがなくても現地の空気を感じておきたいという当初の気持ちが変わることはなかった。

■『日々是』コラムを個人メディアで展開してみよう──。

 次に裏向き、というか今回の取材の隠れたテーマについて説明したい。それは個人メディア──すなわちこの『徹マガ』と、7月1日から装いも新たにスタートする『宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)』に関することだ。

 前述したように、今回は発表媒体が極めて限られた中、私はフランスまでやって来た。しかしよくよく考えてみたら、自分には個人メディアがあるではないか。たとえ取材パスがなくとも、あるいは観戦するカードが「ルーマニア対アルバニア」であっても、現場の空気感がリアルに伝わってくる原稿を書く自信はある。需要がなければ作り出せばいいだけの話だ。であるならば、かつてスポーツナビでやっていた『日々是』コラムを個人メディアで展開してみよう──。

 ただし、テイストやスタイルはスポーツナビでの『日々是』コラムを踏襲しつつも、決定的な違いをあえて設けることにした。それは明日以降の連載を「会員限定のコンテンツとする」こと。つまり、日々のランチ代くらいのお代を月々いただくことで閲覧可能となる、という話である。え、ケチくさい? そう思われた方々には、この機会にあらためて申し上げておきたいことがある。それはすなわち、個人メディアの根幹に関わる話だ。

 どんなネット情報でも無料で読めてしまうこの時代、コンテンツの課金に抵抗感を覚える消費者が一定数いることは重々承知している。しかしながら、私自身がフリーランスとしての活動を続け、さらには大手メディアでは扱わないようなテーマに取り組むためには、やはり最低限の原資が必須となる。加えて、これほど紙媒体が壊滅的な現状を鑑みるならば、同じ危機感を抱える同業者にひとつの可能性を示すためにも、ここは「個人メディアで生きていくフリーランス」という自らの姿勢を強く打ち出していくしかない。以上の理由から、当連載は「私の独自取材は会員の皆さんによって支えられている」ということを、より鮮明にしたいと考えた次第だ。

 今回のEURO 2016取材は、来月からスタートする『宇都宮徹壱WM』が生き残っていくための、さらにはフリーランスが個人メディアで取材活動を続けていくための、まさに試金石である。そして、私がさまざまなリスクを負って今回のフランス行きを決断した理由は、まさにそこにある。そんなわけで、テロの脅威という外的な不安に加えて、新たな個人メディア立ち上げという内的なプレッシャーを抱えながら、本連載は今月20日(日本時間21日)まで全10回、毎日お届けする予定だ。

 なお、タグマ!版の『徹マガ』に現時点で入会いただければ、7月からは『宇都宮徹壱WM』会員へ自動的に切り替わる。私の決意表明にご賛同いただいた方は、この機会にぜひこちらから会員になっていただきたい。そして短期間ではあるが、「特別な大会」となる現場の空気感を共有していただければ幸いである。

<明日につづく>

 宇都宮徹壱がEURO 2016取材から帰国早々に開催する6月30日の『徹マガ』&『WM』読者感謝祭では、現地の模様や、取材の裏側などをたくさんの写真と共にみなさまにお伝えいたします。是非ご来場ください。お待ちしております!

EURO 2016の取材報告もたっぷり!『徹マガ』&『WM』読者感謝祭、前売券好評発売中!

2016年6月30日(木) OPEN 18:30 START 19:30 新宿ネイキッドロフト

前売 1500円 当日 1800円(共に飲食代別)前売券ご購入はこちらから! 

●第一部 19:30~20:30(インターネット中継あり)

4年に1度のヨーロッパ最強国を決める闘い、UEFA EURO 2016取材から帰国早々の宇都宮が、開催地で撮影したばかりの写真を披露!写真を見ながら取材こぼれ話を交えてのクロストークを繰り広げます!

【ゲスト】

・千田善さん(国際ジャーナリスト、通訳・翻訳者)
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 第一部はインターネット中継で公開いたします! 遠方の読者の方もインターネット中継をご覧いただき、ご一緒に楽しんでください!

●第二部 20:40~21:40(インターネット中継なし)

「業界の先輩、後輩と考えるサッカーライティングの今後」をテーマに、業界裏話もまじえてのアツいトークセッション!

【ゲスト】

・佐山一郎さん(作家、編集者)
・中村慎太郎さん(作家) 

●『徹マガ』会員限定「二次会」 22:00~23:30(予定)

 「二次会」は日頃、『徹マガ』をお読みいただいている会員様同士と宇都宮徹壱との懇親の場とさせていただくため、一般のお客様にはご遠慮いただくこととなります。ただし、会員様のお連れ様であれば、会員でない方でもウェルカム! ご登録がまだの方は、この機会にこちらからタグマ!にご登録の上、『徹マガ』会員になっていただき、ご友人ともお誘い合わせの上、二次会までたっぷりお楽しみください!ご来場いただいた会員様には当日、ささやかではございますが、宇都宮徹壱からのプレゼントもご用意しております。

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