宇都宮徹壱ウェブマガジン

ファンゾーンを一変させたモドリッチのゴール  短期連載『徹壱の仏蘭西日記』第2回 6月12日(日)@パリ

■フランスにやって来て早々にトラブル発生

 フランス滞在2日目。昨夜はドイツ在住の指導者兼ジャーナリストで、今回のEURO 2016を取材している中野吉之伴さんと英国パブでフィッシュ&チップスをつまみながらイングランド対ロシア(1−1)をTV観戦していた。さすがに疲れていたのか、アパルトマンに戻ってからは仕事もほとんどできずに泥のように熟睡。今朝は朝の6時に起床して、気持よく執筆することができた。時差ボケに悩まされることなく、今日から本格的な活動を開始できそうだ。

 今回、パリの拠点に定めているアパルトマンは、駅でいうと『Strasbourg Saint-Denis』あたりになる。エレベーターがないので、重たい荷物を3階(実質4階)まで移動させるのは一苦労だったが、部屋は広々としていて清潔感に溢れ、しかもキッチンと冷蔵庫が完備されているのもありがたい。EURO取材をスタートさせるには、これ以上ない住環境と言えるのだが、どうも周辺の治安があまりよろしくはなさそうだ。

 昨日の夜、ちょっとしたトラブルに見舞われた。中野さんと落ち合うべく、アパルトマンを出てすぐのところで、地元の若者たちがストリートサッカーに興じているのに出くわした。こういう場合、私は反射的にカメラを構える。ボールの行方をレンズで追いながら2〜3回ほどシャッターを切った時、異変が起こった。近くにいた若者が「おい、何を撮っているんだ!」と、えらい剣幕で詰め寄ってきたのである(私はフランス語の心得はないが、こういう場合は雰囲気で察することができる)。気が付くと、7〜8人の若者たちが「なんだ、どうした?」と私を包囲するかのようににじり寄ってくる。どうやら私は、非常にまずい状況を作ってしまったらしい。

 幸い、若者たちの中に英語を話せる男がいた(何となく、若き日のアネルカに似ていた)。私が写真家であること、単にフットボールの風景が撮りたかったことを説明すると、「なるほど、わかった。EUROをエンジョイしてくれ」と言って解放してくれた。いやはや、危ない危ない。今回は、こちらの話を聞いてくれる人間がいたこと、そしてまだ日没前で周囲が明るかったことも幸いして、何とか誤解を解くことができた。もしも相手が話の通じない人間ばかりで、日が落ちた時間帯だったら、もっとシリアスな状況になっていただろう。

 確かに私も、一声かけてから撮影すべきだったかもしれない。にしても、これほどカメラに対して警戒心を持つ一般人に会うことは、これまでの経験でそうそうなかったことだ。そういえば若者たちは、決して裕福ではなさそうなアラブ系やアフリカ系ばかり。もしかしたら、彼らの胸の内には「俺たちは常に監視の対象となっている」という強い被害者意識があったのではないか。だとしたら、この国における民族や階層や世代を巡る断絶というものは、われわれ日本人が想像する以上に根深いものなのかもしれない。

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