宇都宮徹壱ウェブマガジン

「もうひとつのワールドカップ」から見えてくるもの 実川元子+FCコリア(シン・ヨンギ、ホ・リャン)インタビュー <1/2>

 間もなくリオデジャネイロ五輪が開幕する。ワールドカップと同様、スポーツを通して「ナショナリズムとグローバリズム」を考える季節が再びやってきた。この深遠なテーマを、さらに別の角度から深掘りできる興味深いサッカーの国際大会があるのをご存じだろうか。今年6月、アブハジアで開催されたConIFA主催の「もうひとつのワールドカップ」、ワールドフットボールカップ2016である。

 ConIFAとは「Confederation of Independent Football Associations」の略で、「独立サッカー連盟」と訳すことができる。FIFAに加盟していないサッカー協会による団体で、2013年設立。本部はスウェーデン北部の都市・ルレオにある。そして加盟「国」は、いずれもユニーク。アブハジアや北キプロスのように限定的に承認されている国家代表チームもあれば、ロマやサーミやクルディスタンのように国境をまたがって居住している民族の代表チームもあれば、アラメア・スルヨエやオクシタニアのような言語によるエスニック・グループの代表チームもある。

 今回、この大会に初めて、日本から『ユナイテッド・コリアンズ・イン・ジャパン』という在日韓国・朝鮮人のチームが出場している。このチームの実体は、関東リーグ1部所属のFCコリア。地域リーグファンにはお馴染みのこのチームが、なぜ名前を変えてConIFAに加盟し、今大会に出場しているかについては、本稿を読み進めば明らかになるはずだ。

 今回は、このFCコリアからアブアジアの大会に参戦したシン・ヨンギ選手(申基永=写真左)、ホ・リャン選手(許亮=同右)、そしてFCコリアの国際大会参加への道を開いた、翻訳家・ライターの実川元子さん(同中央)の3人にお話を伺う。本稿のキモは、以下に挙げる3つの「面白さ」に集約されるだろう。

(1)日本ではほとんど知られていない、ConIFAという組織とワールドフットボールカップという大会の面白さ。

(2)もともと取材者としてこの大会に関わってきた実川さんが、気が付けば大会の「当事者」となってしまった面白さ。

(3)地域リーグ所属のFCコリアが、国際大会に出場することの面白さ。

 それぞれの面白さを感じ取っていただきながら、あらためてスポーツを通して「ナショナリズムとグローバリズム」を考えるきっかけとなれば幸いである。なお実川さんは8月5日(金)に、都内でConIFAに関するトークイベントを開催する。まだ席に少し余裕があるようなので、興味がある方は参加されることをお勧めする。私も当日は会場にお邪魔する予定だ。(取材日:2016年6月29日@東京)

提供:実川元子氏

■11の出場枠をめぐって24チームがエントリー

――今日はよろしくお願いします。まずは実川さんに、FCコリアが『ユナイテッド・コリアンズ・イン・ジャパン』としてConIFAに出場する経緯から伺いたいのですが。

実川 私がConIFAを初めて取材した2014年に、「日本からもぜひ出場してもらいたい」ってConIFAのブランド会長から言われました。というのも、ConIFAの加盟メンバーは欧州中心の傾向が強くて、でもこれから世界的な組織になるためにはアジアからの出場国も増やしたい、ついては、日本にも相応しいチームがあれば教えてほしいというのでFCコリアの話をしたんです。そしたら帰国後、メールが来ていて「われわれの主旨にぴったりだから、ぜひ参加を考えてほしい」と言われたので、木村元彦さんを介してFCコリア総監督のリ・チョンギョンさんにお会いしました。

──なるほど。それでチョンギョンさんは、すぐにConIFAのことを理解してくれたのでしょうか?

実川 たぶん(笑)。というのも「国際大会に出場できるんですか!」ってすごく乗り気でしたから。「でも、実際にエントリーするためにはいろいろ書類が必要なんです」って全部お渡ししたんですけど、面倒くさいと思われたみたいで、しばらく放置されてしまったんですよね(苦笑)。

──それでどうなりました?

実川 私がFCコリアの試合を見に行ったとき「チョンギョンさん、その後いかがですか?」とお聞きしたら、サインしたからもう登録はすんだんだろう、と。「いや、それではダメなんです、契約関係の書類を提出しなければならないんです」と説明したんですけれど、やはり面倒と思われたようで。実際、ConIFAは法務関係の調整に神経を使っていて、きちんとした弁護士を付けていたんですよね。たとえばFIFAにも加盟している団体が、ConIFAに出場する場合にクラブから法的に訴えられないための規定も作っているんです。だから書類を揃えるのがなかなかたいへんでした。

──それで結局、実川さんが翻訳しなければならなくなるわけですね。これまで実川さんは、さまざまな海外の書籍を翻訳されてきましたが、こういう契約書って、ちょっと勝手が違ったのではないですか?

実川 そうですね。法律とか詳しくないし、けっこう調べましたね。そういう経緯もあって、今回のプロジェクトが本当の意味で動き出したのは去年の9月からでした。

──もっとも、書類を提出して入会金(500ユーロ)を振り込めば、そのまま本大会に出場できる、というわけではないですよね?

実川 今回は12の参加チーム枠に24チームがエントリーしていたんです。開催国のアブハジアは出場が確保されています。残る11の枠を24チームがプレゼンでアピールした上での投票で決定されることになりました。昨年行われた欧州選手権で優勝しているパダーニア、そして親善試合を重ねてポイントを獲得したレシアは圧倒的に有利だったし、新加盟の日本のチームは知名度も低く、これはプレゼンを頑張らないといけないって思いました。

(残り 3220文字/全文: 5592文字)

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