宇都宮徹壱ウェブマガジン

「サポーターは基本的にコスモポリタニズムですよ」 清義明(『サッカーと愛国』著者)インタビュー<1/4>

 今週と来週は、このほど『サッカーと愛国』(イースト・プレス)を上梓した、株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役の清義明さんにお話をうかがう。

 清さんといえば、横浜F・マリノスのゴール裏では知らぬ者がいないほどの有名人であり、ご自身のブログでも独自のサポーター文化論を長年にわたり発信してきた。私自身、清さんとは12年来の交流があり、サポーターとしての活動のみならず書き手としても注目していたわけだが、実は本書がデビュー作となる。

 この『サッカーと愛国』は、いわゆる普通の「サッカー本」と紹介するのには、いささかの注意を要する。というのも、筆者の立ち位置がサッカーにあるのは間違いないのだが、その眼差しの先にあるのは「レイシズム(差別主義)」であるからだ。よって、決して気軽に読める本ではないことだけは留意すべきであろう(だからといって読みにくい本ではない。むしろぐいぐい引きつけられて一気読みしたくらいだ)。

 この「サッカーと人種差別」というテーマは、そのものズバリのタイトルの書籍を陣野俊史さんが発表している。本書が目新しいのは、まず「日本のサポーターの視線」が貫かれていることだ。と同時に、サッカーライターにとって可視化することが憚られてきたテーマに対して、果敢に切り込んでいった勇気を心より讃えたい。

 詳しい内容は本書をご覧いただくとして、今週の<1/4>と<2/4>では、清さんが『サッカーと愛国』を執筆することになった時代的背景、そして「嫌韓」の契機となったとされる2002年のワールドカップ日韓大会から「JAPANESE ONLY」事件に至るレイシズムとサッカーとの関わりについて、清さんと私、それぞれの立場から語り合った。非常にデリケートなテーマであるが、最後までお読みいただければ幸いである。(取材日:2016年7月18日@横浜)

■追いかければ追いかけるほど、収拾がつかなくなるテーマ

――あらためまして出版デビュー、おめでとうございます。それにしても完成まで随分と時間がかかってしまいました。本書の企画がスタートしたのはいつでしたっけ?

清 きっかけは第二章の「旭日旗」の辺りです。

――2013年に韓国で開催された東アジアカップですね。

 そうです。その次の年に「JAPANESE ONLY」事件があって、それも取り上げないといけないと思ったら、今度はマリノスの「バナナ事件が起こって。

――次から次へとスタジアムで事件が起こって、そのたびに出版が延び延びになったということでしょうか?

 そうそう。それで1年半遅れになったんですけど、そこから今度はテーマについて、いろいろ悩む期間がありましたね。

――『サッカーと愛国』というタイトルは当初から決まっていたんですか?

 そうです。安田浩一さんの『ネットと愛国』があったんですけども。

――速水健朗さんの『ラーメンと愛国』って本もありましたよね。

 ちょっとした「『××と愛国』ブーム」がありましたよね(笑)。

――書き終えてみて、ご自身としてはイメージ通りの仕上がりになりました? それとも、膨らませすぎたという感じ?

 ページ数はそんなに多くないんですけど、僕としては膨らんでしまってという感じですよね。追いかければ追いかけるほど、収拾がつかなくなるというか。自分の考え方も、書いているうちにどんどん逆転してくるんですよ。ナショナリズムを巡って、それを良いものとして描くのか、それとも悪いものとして描くか、書いていくうちにどんどん反転していく感じでした。

――帯に「木村元彦激賞!」って書いてありましたけど、木村さんの影響というか、アドバイスみたいなものはあったんですか?

(残り 3944文字/全文: 5446文字)

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