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【無料記事】日本代表の「鬼門」にて切に願うこと 旅するカメラ(2016年10月8日@メルボルン)

 イラク戦翌日の夕方に成田を発って、バンコク経由で8日の午後にメルボルンに到着した。当地では11日に、ワールドカップ・アジア最終予選の大一番、オーストラリア対日本が開催される。到着した日のメルボルンは気持ちのよい快晴だったが、まだ春先ということもあり、日が暮れると10度くらいまで気温が下がる。これから現地に向かう人は、薄手のダウンジャケットか革ジャンくらいは用意したほうがよいだろう。

 さて、楽な戦いなどひとつもない最終予選だが、今回の10試合のうちで最も厳しい戦いとなるのが、このオーストラリア戦であることに異論を挟む人はいないだろう。植松久隆さんとの対談でも語ったとおり、なかなか日本が勝利するイメージが描きにくいというのが正直なところである。

 思えば私自身、オーストラリアを訪れるのは今回が4回目だが、残念ながら当地での良い思い出はほとんどないのが実情だ。そのうち2回はワールドカップ予選で、09年は1-2の敗戦、13年は1-1のドロー。昨年のアジアカップでは、開催国オーストラリアとの対戦はなかったものの、日本がベスト8で敗退となったために、強い危機感を覚えながら準決勝以降を取材した(ついでに言えば、ハビエル・アギーレ前監督のラストマッチとなったのが、オーストラリアのシドニーであった)。

 日本とオーストラリアとの過去の対戦は23回あり、8勝8分け7敗で日本が辛うじて勝ち越している。しかしオーストラリアのホームゲームに限定すると、10戦して3勝2分け5敗。しかも5敗のうち4敗が、なんとメルボルンでの試合である(逆にメルボルンでの勝利は一度もない)。もともとオーストラリアのアウエー戦を苦手としている日本だが、ここメルボルンはまさに鬼門中の鬼門と言える。

 ホーム初戦に敗れるという最悪のスタートを切り、その後も薄氷を踏むような試合が2試合続いて迎える、鬼門でのオーストラリア戦。本来ならば国民一丸となって、この難局に挑むべきであろう(少なくとも私はそう考える)。しかし日本から伝わってくる報道の中には、この重要な一戦を迎える直前になっても「アンチ・ハリル」の論陣が少なくないようで、いささかゲンナリする(中には「イラク戦は負けるべきだった」と主張する御仁もいるようだ)。

 先のコラムでも書いたとおり、私自身も指揮官の采配に疑問を感じることは一度や二度ではない。それでも、われわれが今考えるべきことは「日本代表がメルボルンで勝利する可能性を1%でも高めるために何をすべきか」ではないだろうか。その観点で言えば、ここで闇雲に監督批判を展開することが、日本代表のためになるとは到底思えない。

 もちろん「批判するな」と言っているのではない。私が求めたいのは「的確な状況判断」である(特に代表経験のある識者の皆さん、お願いしますよ)。ただでさえ、相手は強いのだ。しかもわが方は出場停止や怪我人の続出で、およそベストとは言い難い状況である。であるからこそ、身内の足を引っ張って相手を利することだけは絶対に避けなければならない。現状の中ででき得るベストな状態で、10月11日のピッチに「われわれの」代表を送り出そうではないか。

<この稿、了>

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