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【無料記事】J1自動昇格とはならなかったけれど 今日の現場から(2016年11月20日@アルウィン)

 J2とJ3の最終節が行われた11月20日、J2の松本山雅FC対横浜FCのゲームを取材した。前節で3位に後退した松本にとっては、J1自動昇格かプレーオフに回るかを決する、非常にテンションの高いこの試合。週明けにはスポーツナビにてコラムがアップされる予定だが、本稿では現地で撮影した写真をメインに振り返ることにしたい。

 キックオフ90分前。スタジアムの外で「マッツモトヤマガァ! ドドンがドンドン!」が聞こえてきたので、急ぎメディアルームを飛び出すと、ゴール裏の山雅サポーターが大旗を振りながら選手バスにコールを送っていた。アルウィンでのバスの出迎えは、意外にも今回が初めて。あらためて、この試合に懸ける彼らの意気込みが感じられる。

 この日のチケットはソールドアウト。のちに発表された公式入場者数は1万9632人で、これまでの最高記録だった1万8906人(15年5月23日の対横浜F・マリノス戦)を更新した。ちなみにメディアの数もまた、尋常でなく多かった。

 先制したのはアウエーの横浜FC。9分、野村直輝のスルーパスに反応した野崎陽介が左足を振り抜き、シュミット・ダニエルが守るゴールを貫く。勝たなければならない松本にとっては、非常に痛い先制点だ。反町康治監督は「(選手に)固さはあったかもしれない」としながらも、「相手のCBが高崎(寛之)をマンマークしていてバランスが悪い。だから2点は取れると思った」とも語っている。

 前半のアディショナルタイム、横浜FCの選手が自陣ペナルティーエリアでハンドの判定を受け、松本がPKを獲得。これをチーム得点王の高崎が冷静にゴール右に決めて試合を降り出しに戻す。前半は1-1で終了。

 松本は後半早々の50分にも、工藤浩平からの浮いたパスを受けた高崎が右足で追加点を決める。ゴール裏のサポーターはマフラーを振り回して大喜び。それにしても高崎は、劇的な逆転ゴールを決めても実に淡々としている。日本では、ちょっと珍しいタイプのストライカーだ。

 しかし喜びもつかの間、54分には右のCKからDFの西河翔吾がヘディングで決めて、試合は再び2-2のイーブンに。「セットプレーでやられるのは、ウチにとっても大きな課題」と反町監督。同時刻、首位のコンサドーレ札幌はツエーゲン金沢と0-0、そして2位の清水エスパルスは、徳島ヴォルティスに1-1。このままでは松本がプレーオフに回ることになる。

 残り時間が気になり始めた82分、松本は左CKを得る。途中出場の宮阪政樹のキックに、ニアから頭で合せたのは、これまた途中出場の三島康平。ピッチに送り出されて2分後、ファーストシュートがそのまま勝ち越しゴールとなった。結果、ファイナルスコア3-2で松本がホームでの最終節を勝利で飾った。

 試合後、選手たちの表情に笑顔はなかった。ハーフタイムでは他会場の結果を知らされていなかったそうだが、何となくスタジアムの空気を察したのであろう。やがて、他会場の結果がアナウンスされる。札幌対金沢は0-0、徳島対清水は1-2。「この結果、松本山雅FCは3位となりました」というアナウンスが流れると、会場からは温かい拍手がピッチ上の選手たちに贈られた。サポーターにとっては、十分に誇ってよい結果だったのである。

 試合後のセレモニーで挨拶する反町監督。劇的な勝利ではあったが、やはり素直に喜べないという心境が、笑顔の向こう側から透けて見える。それでも「われわれは(プレーオフで)またアルウィンで試合ができます。今日のような熱い試合を、また来週ここでやりたいと思います!」と宣言して、会場を大いに沸かせた。

 結果として、松本の1年でのJ1復帰は、プレーオフの結果に委ねられることとなった。とはいえ、選手もスタッフもサポーターも、この結果を悲観しているようには感じられない。むしろ私の周囲のサポーターは「アルウィンであと2試合楽しめる!」と、非常に前向きであったのが印象的であった。J1昇格プレーオフの準決勝は、松本対ファジアーノ岡山、そしてセレッソ大阪対京都サンガF.C.というカードに決定。来週27日から始まるプレーオフでも、好勝負が展開されることを期待したい。

<この稿、了>

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