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【無料記事】献本御礼『ヘダップ』三羽省吾(著)

 来年の朝日新聞の連載小説は「プロサッカー2部のチームを応援する人々を描いた群像劇」なのだそうだ(参照)。単なるサッカー小説ではなく、「2部」を舞台とした「サポーター」をめぐる物語というところに、ようやく時代が追いついてきたという密やかな感慨を覚える。拙著『サッカーおくのほそ道』が早々に重版決定となったのも、トップリーグではないカテゴリーに「物語」を求める人々が確実に増えていることの証左なのかもしれない。いいぞ、いいぞ(笑)。

 というわけで、今回ご紹介するのは、何とJFLを舞台とした小説。版元の新潮社の担当編集者さんが、私の取材歴を知って「ぜひに」と献本していただいた。作者の三羽省吾さんは、2002年に『ハナづらにキツいのを一発』で第8回新潮長編新人賞受賞(入馬兵庫名義)。これまで酒飲み書店員大賞や京都水無月大賞などの受賞歴がある小説家である。過去の作品リストを見る限り、サッカーを題材としたものは見当たらない。それだけに、なぜにJFLを舞台に選んだのか、非常に気になるところだ。

 タイトルの『ヘダップ』とは“Head up”のことで、帯に書かれてあるとおり「顔を上げろ、前を向け」という意味。帯の一番下には「生きるエナジーとなる、ザ・青春小説金字塔」とある。もともと小説はほとんど読まない上に、いわゆる「青春もの」には抵抗があった。しかし読み始めてみると、これが実に面白い! 主人公の桐山勇、18歳が、架空のJFLクラブ『武山FC』に入団。ただし、J1クラブへの内定が取り消されての入団ゆえに、本人はどこかで今いる場所に納得できていない。そこで出会うチームメイトやサポーター、さらには職場(スーパーで働きながらプレーしている)でのやりとりの「温度感」が、実にリアリティに満ちあふれていて、どんどん引き込まれてゆく。

 JFLや地域リーグのクラブにも、高卒ルーキーはいる。そして彼らのほとんどは、それまで縁もゆかりもない土地にやって来て、そこで働きながらプレーを続けることになる。身分も不安定なら、人間的にも未成熟。周りにいる大人たちも、皆が皆、親切で優しいわけではない。これまでアンダーカテゴリーの取材現場で、何人もの高卒ルーキーたちを見てきた。しかしながら、彼らのピッチ外での日常に思いを巡らせたことはまずなかった。ある程度、年齢を重ねた選手たちの日常はイメージできても、それでは18歳の日常とはどのようなものだったのか──。はっきり言って、盲点だった。

 ふと、自分が18歳だった頃を振り返ってみる。高3の冬休みに、いきなり「美大を受験したい!」と思い立ち、その年は受験せずにストレートで浪人生活がスタート。美術系の予備校は、2浪や3浪の「大人」たちがごろごろいて、デッサンが下手な人間はとことん下に見られる、呑気な高校生活からは想像もできない世界が広がっていた。自分の居場所が見つからず、デッサンもなかなか上達せず、ただただもがいていた18歳の記憶。主人公・勇の心情が、こんな形で自分と重なるとは思ってもみなかった。JFLファンならずとも、ぜひ読んでいただきたい。定価1600円+税。

【オススメ度】☆☆☆☆★

「フィクションは書けないけれど、いずれ機会があればアンダーカテゴリーを舞台にした漫画の原作者にトライしたいと思います」

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