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「鹿島の奇跡」を秋田でも起こしたい 岩瀬浩介(ブラウブリッツ秋田代表取締役社長)インタビュー<1/2>

 今週のゲストは、株式会社ブラウブリッツ秋田の代表取締役社長、岩瀬浩介さんである。実は今回のインタビュー、スポーツナビで連載中の『J2・J3漫遊記』の取材中に行われたものだが、岩瀬さんのお話は非常に興味深く、「これはインタビュー記事として独立させたほうがよい」と判断。スポナビ編集部とクラブ側に了解をいただいた上で、今回の掲載と相成った。

 今季のJ3で秋田は、大分トリニータ、栃木SC、AC長野パルセイロに次ぐ4位という好成績を残した。これまでJFL時代を含めて、全国リーグでは8位が最高順位だっただけに、この成績は快挙と言ってよい。とりわけ今季序盤は、開幕から11戦負けなしで勝ち点を積み重ね、一時は首位に躍り出て周囲を驚かせた。こうしたクラブの躍進には、もちろん間瀬秀一監督の手腕に負うところが大きかったが、ここ数年でのクラブ経営の安定化に尽力した岩瀬社長の存在も見逃せない。

 実は岩瀬さん、もともとは秋田の前身であるTDKサッカー部の選手であった。現役を退いたのは、市民クラブに移行した2010年のオフ。すでにその前から広報スタッフを兼任していた岩瀬さんは、そのままクラブに残り、12年に秋田フットボールクラブ株式会社(当時)の取締役社長に就任する。この時、新社長は31歳。秋田がJクラブとなってからも最年少社長であり続けている。

 もっとも選手上がりの若き社長は、これまでクラブ経営に携わったこともなければ、自身も経営者になりたいと考えたこともなかったそうだ。そんな岩瀬さんが、なぜ厳しい経営状態に見舞われていたクラブの社長を引き受けたのか。そして、誰も社長のなり手のないほど危機的だった経営難を乗り切った、その原動力とは何だったのか。これまでさまざまなクラブ社長を取材してきたが、岩瀬さんほど型破りな経営者も珍しい。秋田ファンならずとも、最後までお読みいただければ幸いである。(取材日:2016年10月3日@秋田)

■鹿島から東京、そして秋田へ

――今日はよろしくお願いします。今から10年前の2006年、大分での地域決勝を取材していた者としては、あの時の優勝メンバーがJクラブの社長に就任されていることに、深い感慨を禁じ得ません。まずはTDKとの関わりからお話いただきたいのですが、もともとは日本大学を卒業されてから佐川急便東京でプレーされていたんですよね。社員選手だったのでしょうか。

岩瀬 そういう形になりますね。あそこはプロがひとりもいなかったので。

――配送作業をやりながらプレーしていたんですか?

岩瀬 午前中だけですね。わりとサッカーに重きを置いた生活でした。ただ、契約に合意をしてすぐに、左足の脛骨の疲労骨折が見つかってしまって。ですから、ほとんどプレーできないまま1年を過ごすことになり、チームに対しては本当に申し訳ないと思っていました。当時の佐川は、テニスコートのような固い人工芝で練習していて、ここの環境では回復は難しいだろうなと。そんな時にTDKさんからお声がけいただいて、練習参加をしたのがきっかけです。

――当時のTDKは、にかほ市が拠点でしたよね。私自身は行ったことがないんですが、練習施設もかなり充実しているとか。

岩瀬 その環境があったからこそ、移籍したというのも大きな理由ですね。TDKにお世話になることになったのが2006年7月で、翌年に秋田わか杉国体が開催されることになっていたんです。それもあって、とくに天然芝2面のグラウンドはカーペットが敷かれたように常にきれいでした。クラブハウスやその隣にはプール、そのほかに野球部のものでしたけど、筋トレルームも利用できましたし。

――すごいですね! 聞くところによるとTDKの創者である齋藤憲三という人が、にかほ市の出身で、それで立派な福利厚生施設を地元に作ったとか。

岩瀬 詳しいことはわかりませんが、きっとそうだと思います。おそらくJクラブでも、あそこまで環境が整っているところって限られるんじゃないですかね。いずれにせよ、サッカー選手には申し分ない環境でした。

――秋田での暮らしは初めてだったわけですけれど、生活していく上で不便さを感じることはありませんでした?

岩瀬 実は私、茨城県の鹿島郡(現神栖市)出身なんですが、鹿島アントラーズがなかった頃の地元に似ているなと感じました。その後、Jリーグ開幕によって街の風景がどんどん変わって行くさまを、身をもって経験しています。ですので、秋田で暮らし始めてから「いつかこの秋田にもJクラブができたなら、きっとがらりといろんな意味で風景が変わっていくんだろうな」って考えていました。

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