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フロンターレという温かいクラブに迎えられて 江藤高志(『川崎フットボールアディクト』編集長)インタビュー<1/2>

 新しい年が明けてから2週間あまりが経過し、各Jクラブの新体制発表やチーム始動のニュースがSNS上を賑わせるようになった。今ごろは各クラブの番記者たちも、キャンプ取材の準備に追われていることだろう。今回はそんなひとり、『川崎フットボールアディクト』編集長の江藤高志さんをゲストにお招きした。

 実は昨年のJ1で、私が最も多くのホームゲームを取材したのが川崎フロンターレであった。風間八宏監督の築き上げた独自のスタイルが充実期を迎え、2ndステージ以降は9月いっぱいまで年間首位を堅持。一方で昨年はクラブ創設20周年ということもあり、かつてないくらいに初タイトルへの期待は高まっていた。しかし、1stステージを鹿島アントラーズに、年間1位の座を浦和レッズに譲ることとなり、初めて臨んだCS(チャンピオンシップ)準決勝と天皇杯決勝はいずれも鹿島の勝負強さに屈することとなった。

 川崎があと一歩のところでタイトルを逃すたびに、私はなぜか監督や選手よりも、取材者である江藤さんのことが気になった。12年にわたり川崎を追いかけているのみならず、14年からは「タイトル獲得を祈念して」禁酒を宣言。九州男児らしく酒が大好きだった江藤さんは、それ以来一滴もアルコールを口にしていない。かつて禁酒の経験がある同じ酒好きとしては「偉いなあ」と思うと同時に、またしても彼と祝い酒が飲めなかったことが残念に思えてならない。

 今回のインタビューのテーマは大きく2つ。まず、番記者の視点からの2016年シーズンの振り返り。そして、川崎を追いかける以前のキャリアについても語っていただいた。江藤さんとはかれこれ12年以上の付き合いになるが、後者についても意外と知らなかった話も少なくなかった。川崎のファンはもちろん、そうでない方も新たなシーズンに思いを馳せながら読んでいただければ幸いである。(取材日:2016年12月13日@東京)

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■2016年の川崎フロンターレを表す漢字とは?

――今日はよろしくお願いします。昨日、今年(2016年)を表す漢字一文字に「金」が選ばれたというニュースがありました。江藤さんが考える、今年の川崎フロンターレを表す漢字は何でしょうか?

江藤  J’s GOAL でもそういうお題があって、「夢」にしようと思ったんですよ。儚く消えていったという意味で。もうひとつ候補があって、僅差の「僅」。でも、どっちもしっくりこないんですよね。

――それこそ、人の夢と書いて「儚」が、しっくりくるんじゃないですかね?

江藤 なるほど。いずれにせよ、初タイトルを獲得するには、何かが足りなかった一年でしたよね。でもシーズンが始まる前は、強化があまり上手くいっている感じではなかったので「(タイトル獲得は)難しいかな」というのはありました。なので、開幕戦で(サンフレッチェ)広島に勝って、そこから一気に飛ばしたのは意外でした。

――今季は1stステージが11勝5分1敗で、ずっと上位をキープしている状態だったじゃないですか。「今年は何か違うぞ」という感じはあったんですか?

江藤 感じましたね。何が以前と違うかというと、負けを引き分けに、引き分けを勝ちにするような勝負強さが出てきたということ。開幕の広島戦もそうですし、第2節の湘南(ベルマーレ)も、終了間際の土壇場で森本(貴幸)のゴールで4-4。まあ、バカ試合でしたが(笑)。もちろん、殴り合いに持ち込む意図はないんだろうけど、殴り合いの展開でも負けないところに勝負強さを感じましたね。

――江藤さんの中で「今年こそタイトルを取れるぞ」という予感が確信に変わったのって、どのタイミングですか?

江藤 現実問題として、タイトルが見えてきた(1stステージ)第16節のアビスパ福岡戦の前ですかね。

――裏の鹿島の結果次第で、ステージ優勝が決まるという試合でしたね。取材現場はどんな感じでした?

江藤 (川崎の練習場がある)麻生にいくと報道陣が増えて、何だかざわついているんですよ。僕自身、1stステージのタイトルは「タイトルじゃない」と思ってはいましたけど、Jリーグのレギュレーションとしては、いちおうタイトルじゃないですか。「ああ、タイトルが間近になるというのは、こういう感じなんだな」って思いました。

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