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【無料記事】献本御礼『サポルト! 木更津女子サポ応援記』高田桂著

 久々にサッカー漫画を紹介したい。ありそうでなかった、女子サポを主人公にした当作品。作者は、東京ヴェルディのサポーターとしても知られる高田桂さんである。舞台は千葉県の木更津市。当地を本拠地とする木更津FCを応援する、女子高生3人組が主人公だ。コアサポでちょっとオラオラ系の風夏、何事にも前向きな帰国子女あゆみ、そしてライトサポ代表で「地味め女子」のムー子。物語は、ムー子の視点を通して、地元クラブをサポートする喜怒哀楽を描いてゆく。

 高田さんのイラストは、サッカー界隈ではわりと有名なので、何となく視界の中には入ってはいた。ただし、きちんとストーリーのある作品を読むのは今回が初めて。何の気なしに読み始めたのだが、すぐさまその世界観に引き込まれ、不覚にも目頭を熱くしてしまった(電車で移動中だったので、本当に困った)。描かれている世界観は、Jクラブ(特にJ2)を応援している人たちには、どれもが「いつもの」「普通の」「よくある」エピソードの集積でしかない。しかし、それらが純然たるビギナーのムー子の視点を通すと、びっくりするくらい鮮やかな彩りが加わるのである。

 たとえば、最初は単なる「怖そうな集団」でしかなかった、ゴール裏の人々。しかし、主人公がクラブへのコミットを深めるにつれて、次第に「怖そうな集団」のひとりひとりに人生があり、生活があり、物語があることが明らかになる。たとえば、ひょんなきっかけから始まったスタジアム観戦。それを契機として、友だちを誘う、チャントを覚える、レプリカを買う、アウエーに参戦する、シーチケ購入のためにバイトする──。それらのステップアップが、実に丹念に描かれている。

 サポーターにとっては、すべてが経験済みの「あるある」。にもかかわらず、なぜこれほど引き込まれるのか? おそらく中村慎太郎さんの『サポーターをめぐる冒険』と同じ構図であることが大きいだろう。もちろん本書はフィクションなのだが、それゆえに作者のリアリティに対するこだわりは凄まじく、そしてゴール裏への眼差しは愛おしいくらいに優しい。より多くのサッカーファンに手にとってほしい良作だ。なおWMでは、来月に高田さんのインタビュー記事を掲載予定なので、ご期待いただきたい。定価600円+税。

【オススメ度】☆☆☆☆☆

「Jリーグがライト層を増やしたいなら、この作品を有効活用すべきだと思います」

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