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【無料記事】献本御礼『もうひとつのプロ野球 若者を誘引する「プロスポーツ」という装置』石原豊一著

 代表であれJリーグであれ、「日本サッカー」というものを相対化して評価する場合、そのテンプレートに「ヨーロッパでは〜」というのがある。実際、そういうテキストを嫌というほど目にしてきたし、私自身もそういう原稿を書いてきた。それ自体は決して間違ってはいないし、日本サッカーが目指すべき対象として「ヨーロッパ」を志向することは、競技であれ文化であれ経営であれ、今も有効だと思う。

 とはいえ、いくら「同じフットボール」だからといって、無条件にヨーロッパと日本を比較してよいのだろうか。ヨーロッパ(と一括りにするのもどうかと思うが)と日本とでは、競技レベルはもちろんのこと、フットボールの歴史も、社会的な位置付けも、まったく異なる。もちろん、日本サッカーが目指すべき先にヨーロッパがあるのは正しい認識だと思うし、この15年くらいでかなり近づいているという実感もある。しかし、一方でこうも思う。同じ日本で行われている他競技──例えばプロ野球やBリーグとJリーグを比較するという視点も、実は必要なのではないかと。

 いささか前置きが長くなった。帯のコピー「職業:プロ野球選手、ただし給料0円。」が示すとおり、本書は「プロ」と銘打ちながらも実情がまったく伴っていない日米のマイナーリーグの内情と、そこに自身の夢を託す若者たちの切ない実情に切り込んだノンフィクション。私は自他共に認める野球音痴だが、それでも読み始めると思いのほかのめり込んでしまった。というのも自分の取材経験と照らし合わせたとき、本書で描かれている事象に思い当たる節が少なからずあったからだ。日本の独立リーグを「アンダーカテゴリー」、アメリカの底辺リーグを「東欧あたりの辺境リーグ」に置き換えると、その思いは切実である。

 もちろん野球とサッカーとでは、プロとアマチュアの位置付けは異なるし、野球にはサッカーのような厳然たるピラミッドもない。それらは重々承知しているものの、さりとて「サッカーは野球に比べて健全だ」と、どこまで言い切れるだろうか? 本書では「なんちゃってプロ」「ノマド・リーガー」というフレーズが頻出するが、私の取材先でも「名ばかりJリーガー」や「カツカツ海外組」は存在する。彼らの努力とチャレンジ精神には一定の敬意を払いつつも、「夢を持つことの素晴らしさ」ばかりが強調される風潮には、かねてより密やかな危惧を抱いていた。

 2017年の個人的なテーマとして「他競技から見た日本サッカー」というものがある。その意味で「アスリートのセカンドキャリア」について考えさせられる本書と、このタイミングで出会えたのは幸運だった。いずれ近いうちに、著者にインタビュー取材を試みることにしたい。定価1800円+税。

【オススメ度】☆☆☆☆★

「版元はハードなサッカー本で知られる白水社。ソフトカバーだったことも含め、ちょっと意外でした」

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