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底辺と秘境から見た「もうひとつのプロ野球」 石原豊一(『もうひとつのプロ野球』著者)インタビュー<2/2>


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■NPBと独立リーグとの距離感

――日本国内の独立リーグに話題を移したいと思います。実は私、2006年にカマタマーレ讃岐の取材がてらに、四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズの試合を観たことがあるんですよね。四国は野球が盛んと聞いていたんですが、行ってみるとまったくのガラガラでびっくりしたことを覚えています。

石原 06年というと、四国アイランドリーグが始まって2年目ですね。その後、各地で独立リーグが次々と生まれるわけですが、私は時代の必然だったと思っています。というのも、ちょうどこの時期って社会人企業の野球部がどんどん廃部になって、プロに入れなかった大卒や高卒の子たちの行き場がなくなってしまったんですね。

――なるほど。企業チームへの門戸を閉ざされた若者たちの受け皿として、独立リーグが次々に生まれていったと。石原さんは日本の独立リーグの可能性について、どうお考えでしょうか?

石原 アイランドリーグの場合、スポンサー収入に活路を見出すようになっていて、それはそれでひとつのモデルになっていると思います。何だかんだで10年以上続いているし、熱心なファンも一定数いますからね。ただ、現場ではいろいろと問題意識を持っている人もいて、たとえば高知ファイティングドッグスなんかは、現状のままだと市場規模として厳しいので、NPBの傘下に入ろうとしていました。

――ある意味、わかりやすくなりますよね。で、どうなりました?

石原 結局、NPBがダメって言ったんですよ。というのも、育成選手に関しては、球団によって考え方がまるで違うからです。たとえばソフトバンク巨人は、育成選手をいっぱい抱えようとしているけれど、逆にファイターズは全然抱えていない。もしも独立リーグをNPB12球団の3軍にしようとしても、「ウチはそんなの必要ない」って反対する球団は必ず出てきますよ。当然、3軍を持てば、それだけコストもかかるわけで、やはりNPB側は嫌がるでしょうね。

――育成にそんなにお金は投資できないと。育成を重視するJリーグとは、そこが一番の違いですよね。とはいえ、コスト面だけを考えるならば、大学や高校や社会人から毎年プロを目指すタレントが輩出されるわけで、球団としてはスカウティングさえ抜かりなくやっていればいいわけですし。

石原 そこは考え方ですよね。ただ、アメリカではなぜMLB傘下のマイナーリーグがきちんと回っているかというと、それぞれの地域で野球ファンが支えているからなんですね。つまりマイナーリーグの存在意義が、単に選手育成だけではなく、逆に野球ファンそのものを増やしているという側面もある。そうした考え方をNPBができるかどうかですよね。

――NPBは12球団が固定されていて、しかもマーケットがそれなりにある地域でしか活動していないので、それこそ四国や北信越にNPBの球団ができることはないですよね。となると、NPBのマイナーリーグができたとして、普段プロ野球が観られない地方都市で活動をすれば、それは野球ファンにとって非常にありがたいことだと思いますが。

石原 ただ、もうひとつアメリカの話をすると、向こうのマイナーリーグ、特にMLB傘下の球団は「選手で稼げる」ということなんですよね。必ず何人かはメジャーに昇格するので、そのたびに(選手にサインしてもらうための)カードが売れるんですよ。もちろん、アイランドリーグからプロに行く選手も何人かいるんですけど、意識としては別団体だから、そこでのビジネスの意識は希薄なんですよね。NPBとしても、向こうが自腹で独立リーグを運営してくれて、いい選手が出てくればリーグにある程度の契約金を支払ったほうが、コスト的には安いと思っているんでしょうね。

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