宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料記事】目指せ重版! 新著を部分公開します!『J2&J3フットボール漫遊記』<水戸ホーリーホック篇>

 残暑お見舞い申し上げます。

 8月は5週あることに加え、この時期はお盆休みということもあり、今週の当WMは既存コンテンツの無料公開とさせていただく。そこで7月に上梓した『J2&J3フットボール漫遊記』の中から、水戸ホーリーホックとコンサドーレ札幌の章、それぞれ前半部分を無料公開することにした。

 おかげさまで本書は多くのサッカーファンの皆さまにお買上げいただき、発売から1カ月を過ぎて「重版まであと一歩」(担当編集者談)というところまでこぎ着けた。ここはもうひと押しすることで、昨年の『サッカーおくのほそ道』に続く重版を達成したいところ。そんなわけで版元の了承を得た上で、本書をまだご覧になっていない方に向けてWMでの部分無料公開と相成った。当該サポ以外の皆さんも、ご覧いただければ幸いである。

Vol.01 昇格13年目の「Jリーグ元年」 水戸ホーリーホック (2012年・夏)より

■わずか2701人に止まった水戸対京都

 1対0で迎えた39分、鈴木隆行が鋭くえぐるようなドリブルでボックス内に侵入する。たまらずに相手DFがファウルで倒してしまい、水戸ホーリーホックにPKのチャンスが与えられる。鈴木はこれを落ち着いて決め、ケーズデンキスタジアム水戸のスタンドが歓声で沸き立った。

 しかし喜びもつかの間、アウェーの京都サンガFCは、すぐさま久保裕也のゴールで1点差に詰め寄る。6月24日に行われた、J2第21節、水戸対京都の試合は、予想外にスリリングなゲーム展開となった。

 水戸は47分にもPKを得て、これを橋本晃司がきっちり枠に収めて3対1。結局これがファイナルスコアとなった。ホームで勝ち点3を積み上げたものの、水戸の順位は11位と変わらず。それでも6月2日以来4試合ぶりとなる勝利を、非常に相性の悪い京都相手から挙げたのだ(これまでの対戦成績は水戸の2勝5分け12敗)。水戸サポーターにとっては、試合内容も結果も十分に満足できるものだったと言えよう。

 試合後の柱谷哲二監督のコメントからも「お互いに特徴の出た、面白いゲームだったと思います。その中で先制点を取れたのがとても大きかった」と、一定以上の手応えが滲み出ていた。私自身、水戸のホームゲームを取材するのは久しぶりであったが、今年36歳になる元日本代表の鈴木と、今年2月に現役高校生ながら日本代表に選出された久保のゴールが一度に見られたことも含めて、大いに満足であった。それだけに、この日の公式入場者数が、わずか2701人に止まったのは、何とももったいない話である。

 ちなみに、この第21節のJ2の平均は5644人。水戸対京都よりもさらに数字が下回っていたのは、ギラヴァンツ北九州対大分トリニータ(@本城)の2129人、そしてザスパ草津対ガイナーレ鳥取(@正田スタ)の1894人であった。いくらJ2とはいえ、これはいささか寂しすぎる数字であると言わざるを得ない。

 J2のスタジアムの収容人数は「1万人以上」と定められている。にもかかわらず、その4分の1にも満たない入場者数が記録されているのは、この節に限った話ではない。

■なぜ水戸は「入場者数ワーストから脱出」できたのか?

 このところ個人的に気になっているのが、J2の入場者数の推移である。7月25日時点で、J1の平均入場者数は1万6908人。前年の1万5797人と比べて7・0%増である。これに対してJ2の平均は5499人。前年の6423人に比べて14・4%減となっている。最も落ち込みが激しいのが、J1から降格したアビスパ福岡で、実に半分以下の51・1%減。次いでロアッソ熊本の32・7%減、北九州の27・8%減と続く。

 J1は、震災の影響で入場者数が落ち込んだ昨年から、わずかながら復調傾向が見られる。ところがJ2については、昨年からさらに落ち込み、現時点でのリーグの平均入場者数は5000人台にまで下がってしまった。

 一説には、J1を土曜日、J2を日曜日にそれぞれ固定して開催した結果だと言われている。確かに日曜夜の開催は、翌朝の通勤や通学を考えると、いささかハードルが高く感じられるだろうし、ましてやアウェーに乗り込むとなると帰宅できなくなるリスクさえある。開催曜日固定による入場者数の増減については、Jリーグにおいてきちんと精査・検証すべきテーマだと思う。

 とはいえ、昨年と比べて入場者数が増えているチームもある。今季からJ2で活動する松本山雅FCとFC町田ゼルビアを除くと、水戸(15・5%増)、草津(8・4%増)、ファジアーノ岡山(7・2%増)、横浜FC(5・3%増)、そして京都(4・0%増)の5クラブが、地道に平均入場者数を伸ばしている。

 ここで特筆すべきが、唯一の2桁の伸びを示している水戸。昨年(11年)の3349人から3868人にまで増加している。今シーズン、J2の節ごとの平均を超えたのは1試合のみだが(第7節の対ジェフ千葉戦)、実は人知れず入場者数をこつこつと増やしていたのである。

 水戸といえば、これまでJ2の平均入場者数ではずっと低迷を続けていたことで、つとに有名である。05年から09年までは、5シーズン連続で平均入場者数最下位となり、10年にはNHKのバラエティー番組『欽ちゃんのワースト脱出大作戦』にも登場。「婚姻率ワースト」「交通事故死ワースト」「日本で一番汚い川」「糖尿病死亡率ワースト」とともに取り上げられ、水戸の集客の悪戦苦闘ぶりは全国的に知られることとなった。

 この番組の効果かどうかは不明だが、この年の水戸はFC岐阜を抜いて、入場者数ワーストから脱出。翌11年は、ビリから3番目となり、今季は20チーム中13位につけている。J2クラブが軒並み集客で苦労を強いられている中、水戸の堅調な伸びはいったい何に起因しているのだろうか? この疑問が今回、私が水戸を取材しようとした一番の動機だったのである。

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