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アジア5位決定戦が日韓戦にならないために 慎武宏(ライター/S-KOREA編集長)インタビュー<1/2>

 8月も残り2週間となり、ワールドカップ予選に臨む日本代表に、サッカーファンの注目が集まる季節となった。今月24日には日本代表のメンバー発表が行われ、31日には埼玉スタジアムでオーストラリア戦が、そして9月5日にはジッダでサウジアラビア戦が行われる。現在グループB首位の日本は、あと勝ち点3を積み重ねればロシアへの道が開かれる。ただし日本は、オーストラリアにはアジア予選での勝利がなく、アウエーのサウジ戦も厳しい試合になることは確実。まったく気の抜けない連戦となることは間違いない。

 この2試合の結果、もし日本がグループ3位となってしまった場合は、グループAの3位とホーム&アウエーで5位決定戦を戦うこととなり、その勝者はさらに北中米カリブの4位と大陸間プレーオフに進出。ここでもホーム&アウエーを戦い、その勝者がやっとの思いで本大会のチケットを手にすることができるというシステム。つまりグループ2位でフィニッシュできなければ、その後は「絶対に負けられない戦い」がさらに4試合追加されることになるのである。

 危機的な状況は、お隣の韓国も同様である。ここまで4勝1分け3敗の2位。すでに1位イランは予選突破を決めており、3位ウズベキスタンとは1ポイント差。残り2試合で韓国は、ホームで苦手のイランと、そしてアウエーで侮りがたいウズベキスタンと対戦する。韓国が確実に2位以内を確定させるには、この2試合で勝ち点4以上を獲得する必要があり、その意味では日本以上に厳しい状況である。

 いささか前置きが長くなった。今回、ゲストにお招きした慎武宏さんは、かれこれ20年以上にわたり韓国代表を取材してきた同業者である。このタイミングで慎さんにお話を伺うのは、日本と同じく予選で苦しんでいる韓国が、隣国・日本とはまったく異なるアプローチでこの危機を打開しようとしていることである。成績不振のウリ・シュティーリケをばっさりと解任し、後任にコーチのシン・テヨンを昇格させたのは、その顕著な例と言えよう(もちろん日本が3敗を喫していたら、似たような決断が下された可能性はあるが)。

 ほんの少し以前は「ワールドカップ本大会に出るのが当たり前」だった韓国が、このような事態に陥った原因はシュティーリケだけの問題だったのだろうか? そもそもかの国ではなぜ、代表監督の首がすぐにすげ替えられてしまうのか? そしてもしも5位決定戦で日韓戦が実現した場合、それは両国のサッカー界にどのような影響を及ぼすのであろうか。韓国の抱える問題は、一見すると他所の国の出来事のように思えるが、日本といろいろ比較すると参考になることが少なくない。そんなわけで、さっそく慎さんにご登場いただくことにしよう。(取材日:2017年8月1日@東京)

<目次>

*「ゴッド・シュティーリケ」はなぜ解任されたのか?
*なぜ韓国では「長期政権」が生まれにくいのか?
*シン・テヨン新監督は「韓国の手倉森誠」?
*日韓戦は「どちらが勝っても茨の道になる」?
*韓国代表に選ばれるのは「罰ゲーム」?
*ワールドカップは韓国サッカーのカンフル剤?

■「ゴッド・シュティーリケ」はなぜ解任されたのか?

――今日はよろしくお願いします。まずシュティーリケ解任のお話から聞きたいんですけど、第一報が入って来た時の慎さんの印象はどうでした?

 その前の3月に(ワールドカップ予選で)中国に負けて、やはり解任世論が高まっているんですよね。だからカタールに負けた瞬間に「これは解任もあり得るな」と思っていました。

――この間、中国に行った時に聞いた話ですけど、韓国戦の会場になった長沙は「聖地」扱いになっているらしいです。「次もここでやろうか」みたいな(笑)。

 韓国はまだ「自分たちはアジアの中の最強」という自負があると思うんですよ。7大会連続でワールドカップに出場しているとか、2002年大会のベスト4とか。予選では苦戦することがあっても、何だかんだいって本大会に出場して、それなりの結果を出している。そんな韓国に対して、ずっと「恐韓症」と呼ばれる苦手意識を持っていた中国に負けてしまった。これは韓国国民にとって、非常にショッキングな大事件でしたね。その前にもシリアに0-0で引き分けていたので、いよいよヤバいという雰囲気はありました。

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