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いわきFCが「Jリーグに入らなくてもいい」と考える理由 安田秀一(株式会社ドーム代表取締役CEO)インタビュー<2/2>

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■スクールや育成年代で儲けようとは思わない

――いわきFCの成り立ちを考える時、まず物流センターを作るということが前提にあって、そこにサッカーチームを作ろうという話になっていったと。では「日本のフィジカルスタンダードを変える」というコンセプトは、どこから出てきたんでしょうか?

安田 これも大倉との再会からです。その時にフィジカルの重要性を話していて、それは僕自身もずっと考えていたことでした。昔のプロ野球選手、それこそ王貞治は畳が擦り切れるまで素振りをしたとか、真剣を使った練習をしていたとか、そういうすさまじい努力の末にアメリカの選手に追いつくことができた。でも今は、欧米のアスリートのほうが、もっともっと努力をしていて、それは日本のアスリートとの体格差を見れば明らかですよね。

――サッカーでも顕著ですね。日本代表の欧州組は、Jリーグでプレーしていた時と比べて軒並み身体がごつくなっているのも、環境の違いが大きいのは間違いないです。

安田 アメフトでも、昔の日本人選手は(体重が)100キロあるやつなんて、ほとんどいなかったです。アントニオ猪木だって、100キロちょっとでヘビー級だったんですよね。今のウチの大学のアメフト部には、120キロがごろごろいます。それでも本場と比べると、まだまだ小さい。NFLなんかだと、ポジションによっては150キロとかいますから。そんな話をしていたら、大倉も「まさにそうだよ! でも日本のサッカー界には、それを解決するノウハウがない」と。だったらウチには、アンダーアーマーのメソッドもあるし、DNS(プロテインとサプリメントのブランド)も、DAH(ドームアスリートハウス=ドームの運営するジム)もある。そこからですよね。

――つまり「日本のフィジカルスタンダードを変える」といういわきFCのテーゼは、おふたりが再会して意気投合したところから始まったわけですね。そこからドームいわきベースができて、さらにいわきFCフィールド、いわきFCパークが段階的に作られていきます。これらの設備投資は、いくらくらいかかったのでしょうか?

安田 全部で130億円ぐらいかかっているんですよ、そのうち36億円が国からの補助金です。ただ、われわれは震災復興支援ということでいわきに物流センターを作って、真面目に取り組んだ結果、36億円分はすでにクリアしていると思っています。いわきFCの天皇杯での活躍によって、いわきは郡山や会津よりも明らかに露出が高まっている。それにいわきベースで雇用している人たちは、ウチの選手を除けば基本的に地元の人ばかりです。いわきFCパークにしても、いわきFCフィールドにしても、地元の人たちに楽しんでいただいていますから、36億円以上の価値は十分に出していると思っています。

――いわきFCパークは、商業施設を併設したクラブハウスですが、テナントがすごく豪華で驚きました(参照)。アンダーアーマーのアウトレットがあるのはわかるとして、いきなり1階に外車の販売店があって、2階には英会話教室と選手も使用しているジム(DAH)があって、3階に飲食店が入っていますよね。しかもけっこう高級路線です。

安田 僕はあそこに家族が集う異空間を作りたいと考えていました。その意味で、外車の販売店は絶対に外せなかったですね。つまり、車を買うにしても、子供に英会話を学ばせるにしても、家族全員で来てくれたほうが決めやすい。本当はあそこに銀行も入れて、学資ローンの窓口も作れば、なおいいんじゃないかと思っているんですけど。お母さんはカフェのバルコニーから息子のサッカーの練習を見て、お姉ちゃんは英会話、お父さんはこっそり外車の商談をする、そんな世界観です。

――そこまで考えていますか(笑)。一方で、いわきFCフィールドは人工芝の利点を活かして、スクールをはじめとして地元の子供たちに開放していますよね。あれは全部、無料でやられているんですか?

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