宇都宮徹壱ウェブマガジン

もし松岡修造がJクラブのフロントになったら 『修造部長』著者、鈴木英寿インタビュー<1/2>

 昨年10月、一冊の本がわが家に献本された。『修造部長 もし松岡修造があなたの上司になったら』である。タイトルが示すとおり、元プロテニスプレーヤーの松岡修造氏が、とある中小企業の営業部長に就任したら、というビジネスのシミュレーション本。以前、『もしドラ』という作品が一世を風靡したが、その松岡修造版と言えばイメージしやすいだろう。

 仮に本屋でこの本の平積みを見つけたとして、おそらく私が手に取る可能性は限りなく低かったと思われる。松岡氏の熱血キャラクターも、そして弘兼憲史氏が描くカバーも、私にはかなり縁遠い世界に思われたからだ。それでもページをめくり始めたのは、今週のゲストである鈴木英寿さんが本書を執筆したからである。

 鈴木さんはメルマガ時代を含めて、たびたび取材させていただいた人物である。もともとはサッカーダイジェストの編集者だったが、その後はFIFA.comのライター兼編集者に転じ、その間にベガルタ仙台、福島ユナイテッドFCのフロントを経て、最後にお会いした時はFリーグのヴォスクオーレ仙台で社長をされていた。そして最近では新たに新会社を立ち上げて、都内の一等地にオフィスを構えたばかりである。

 そのキャリアのほとんどをフットボールの世界に費やし、国内外で縦横無尽に活躍してこられた鈴木さん。その彼が、なぜ松岡修造でビジネス本なのか、どうにも理解できずにいた。しかし本書を読み進めるうちに「ああ、これは仙台や福島での経験が反映されているんだな」と納得する。

 今回の鈴木さんのインタビューは、単なる「著者インタビュー」ではない。確かに導入は『修造部長』だが、そこから発展してJクラブのフロント業務のあり方、さらにはスタッフの労働環境について、私と鈴木さんのそれぞれの視点から議論を深めていくことになる。

 そもそもJクラブは、経営規模から見れば日本の中小企業とほとんど変わりがない。ゆえに『修造部長』で描かれた世界観からは、クラブ経営の現場がうっすらと見えてくる。そこに私は、本書の面白さを感じた。実は私以上に、カミさんが夢中になって読んでいて、「職場の人にも紹介したい」とまで言っていた。もし書店で見つけたら、ぜひ手にとっていただければ幸いである。(取材日:2017年11月29日@東京)

<目次>

*なぜサッカーではなく「松岡修造」だったのか?

*フィクションではなく「ある種のシミュレーション本」

*福島ユナイテッドの運命を決めた緊急取締役会

*ヴォスクオーレ仙台の経営が「失敗だった」理由

*プレミアリーグのスタッフは17時で仕事が終了!

*「幸せなクラブ像」を実現させるために必要なこと

■なぜサッカーではなく「松岡修造」だったのか?

──今日はよろしくお願いします。最後にお会いしたときは、2年前の仙台でしたよね。それから鈴木さんは新たな事業を立ち上げ、そして『修造部長』という新著を発表されました。あまりの急展開ぶりに、なかなかフォローしきれていないんですが、まずは新著のお話から伺いたいと思います。

鈴木 本書の奥付を見ていただけますでしょうか。執筆者に私の名前が入っていまして、カバーのイラストは漫画家の弘兼先生に描いていただきました。編集は宝島社の九内俊彦さん、そして「制作協力IMG」というのは松岡修造さんの事務所で、その下に専修大学でスポーツ心理学を教えていらっしゃる佐藤雅幸先生のお名前があります。編集の九内さん、そして佐藤先生のマッチングというのが、そもそものこの企画のスタートだったんですね。

──九内さんのお名前を検索したら、けっこうヒット作を飛ばしている編集者のようですね(参照)

鈴木 九内さんとは、もう10年以上にもわたって(新宿)ゴールデン街で飲み明かす仲間だったんです。たまたま同じ歳だから仲も良くて。それで1年くらい前に「スポーツ関係の書籍担当者が不在になって、自分がそういうものを作らなくいけなくなったんだけど」という相談をいただいたんです。当然、彼が僕に求めてきたのは「サッカーもの」ですよね。

 今でもFIFAの仕事はしていますし、これまでのキャリアを見ればサッカーものばかりだから当然でしょう。ただ僕自身としては、何かしら作品を世に送り出すのであれば、あえてサッカーからいったん外れたところから勝負しようと。では、誰に胸を借りればいいかと考えたときに、佐藤先生のお名前が浮かんだんです。

──その佐藤先生から修造さんへとつながっていったと。

鈴木 ええ、もともと佐藤先生の息子さんはプロのテニスプレーヤーでしたし、弟さんも修造チャレンジでコンディショニングのトレーナーをされているんですね。修造チャレンジというのは、サッカーで言うところのトレセンみたいな感じで、全国の有能な子供たちを発掘して、年に3~4回のミニキャンプをやるんです。もちろん修造さん自身でもテニスを教えますし、あるいは海外から指導者を呼んだり、メンタルやコンディショニングについて学んだり。そういったことを修造さんは20年くらい続けているんです。

──そんな修造さんと、佐藤先生はどれくらいのお付き合いがあるんでしょうか?

鈴木 長いですよ。それこそ松岡さんのことを少年時代からよくご存知で、30年以上にわたる信頼関係を築いていらっしゃる。そこでまずは九内さんと僕とで企画を練って、それから佐藤先生にお話を持っていったという感じですね。

──この企画のキモは、ストレートにテニスを扱うのではなく、そこにビジネスを絡ませているところだと思います。これは鈴木さんのアイディアですか?

鈴木 そうです。僕自身、ベガルタ仙台、福島ユナイテッドFC、そしてヴォスクオーレという東北の3クラブで合計6シーズンにわたりフロント業務をやってきました。もちろん上手くいった部分もあったけれど、失敗したチャレンジもたくさんあった。それらを何らかの形にまとめてアウトプットしたいという思いがあったんです。

──なるほど。ただし、そこでサッカーを題材にしてしまうと、いろいろと生々しい話になってしまうんでしょうね。「ここに出てくる性格の悪い部長は、あの人がモデルだな」みたいな(笑)。

鈴木 おっしゃるとおり(笑)。それにプラスして、本の表紙にも使えるような知名度のある人を主人公にしたい。そこでぱっと思い浮かんだのが松岡修造さん。以前、ヒットした『もしドラ』は、高校野球の女子マネージャーがドラッガーを読んでチームを強くする話ですけど、修造さんが上司になったらどんなだろうというのがきっかけでした。僕自身、ダメな上司でしたから(苦笑)、自分の何がダメだったのかということを修造さんに託して、反省・検証してみたのがこの本なんです。

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