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【無料公開】「報道されない」開催国ブラジルの現在(再) 大野美夏(サッカージャーナリスト)インタビュー<2/2>

大会期間中は日本人であることをアピールすべし

大野 でも、どうなんですか? 来年はそんなに日本から、たくさん人が来るんでしょうかね?

――少なくとも前回大会よりは多いと思います。南アフリカをキャンセルした人が「ブラジルは行くぞ!」っていう感じになっていますから。それにワールドカップのような機会がないと、なかなかブラジルまで行けないですからね。

大野 確かに、せっかくのワールドカップですしね。

――あと、やっぱり治安以外の部分では、多くの日本人はブラジルに対していいイメージを持っているのも大きいですよね。何と言ってもサッカー王国だし、明るいラテンのイメージだし、親日家も多いし。

大野 確かに親日家は多いですね。だからできるだけ、日本をアピールするものを身につけたほうがいいですよ。「JAPAN」って書いた鉢巻とかね、それだけでサムアップされたり、アミーゴって呼ばれたりして、みんな優しく接してくれるから。

――コンフェデでも地元の人たちが日本に声援を送っていましたが、あれは日本が見ていて楽しいサッカーをやっていた以上に、もともと親日的な人が多かったことも大きかったと思うのですが、いかがでしょう?

大野 それはありますよね。あと、サッカーではまだ嫌なライバルにまではなっていない(笑)。だから応援してくれるんですよね。でも同じアジアで、たとえばもし韓国や中国の代表チームが来ていたとしても、あんなに応援することはなかったと思う。

――それはやはり、日系ブラジル人の存在も影響しているんでしょうか?

大野 日系人はブラジル中に散らばっていますからね。アマゾンの奥地まで入って開拓した人たちもいるし、東北部のところにも日本人会があるぐらい。レシフェにもナタールにも、あらゆる場所にありますよ。100年の移民の歴史があって、しかもいろんなところに散らばっているから知名度が違う。ブラジル以外の南米だと、東洋人は「チーノ(中国人)」って言われるけど、こっちは絶対「ジャポネス(日本人)」ですから。

――日系人といえば闘莉王が生まれ育った街も、ものすごく田舎らしいじゃないですか。彼は都会に出てくるまで、3階以上の建物を見たことがなかったらしいですね

大野 サンパウロから5時間ぐらいのところかな。ブラジルの田舎って、そういうところが多いですよ。そしていろんなところに 、日系人が開拓に入っている。そういえば前のブラジルの大統領で、ルラ(ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ)という人がいるんですけど。

――はい、リオ五輪の招致活動でスピーチしていた人ですね?

大野 そうそう。彼は東北部出身で、サンパウロに出てきた時に日系人のオーナーがやっているクリーニング屋さんで働いたんです。そこで本当によくしてくれたらしくて、ことあるごとに「日系人の下で働いていたけれど、素晴らしい人たちだった」と言ってくれるんですよ。

――それは何やら嬉しくなる話ですね。

大野 だからブラジルに来るときには、是非とも日本をアピールできるものを身につけたほうが絶対いいと思います。「お前は何人だ」って聞かれるよりは、「オレは日本人だ」みたいな感じでね(笑)。

――なるほど、それは非常に重要なことですね。読者の皆さんにも、このことは大々的にお伝えしておきます(笑)。今日はありがとうございました。

<この稿、了>

大野美夏(おおの・みか)

岐阜県出身。サッカーに興味を持ったのは1986年メキシコ大会がきっかけ。92年、JICA(国際協力機構)の青年ボランティアとしてブラジルへ渡り、その後、ジャーナリストに転身。日本の雑誌、新聞などにブラジルサッカーの情報を伝えている。好きなチームはパルメイラス。

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