宇都宮徹壱ウェブマガジン

テロの脅威は? フーリガン対策は? ワールドカップを楽しむための安全管理<2/2>

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■ロシアのフーリガンが目の敵にする国とは?

──次はフーリガン対策について考えたいと思います。ここ最近のEURO(欧州選手権)では、ロシアのフーリガンがイングランドやポーランドのサポーターと衝突する事件が続いています(参照)。今大会もそうしたリスクは否定できないと思うのですが、試合カードによってリスクの度合いが違うということはあるのでしょうか?

服部 ロシア人にとって嫌いな国のナンバーワンはアメリカで、次がウクライナなんですけど、幸か不幸かどちらも今大会に出場しません。それ以外に折り合いの悪い外国の筆頭格が、イングランドでありポーランドであるわけですね。

尾崎 ポーランドは日本がグループリーグで対戦する相手ですよね?

服部 そうです。しかも日本がグループリーグを首尾よく突破したら、イングランドと当たる可能性もある。日本人がロシア人に絡まれることはないと思うんですけど、相手がポーランドだったりイングランドだったりすると、ケンカの巻き添えに遭う可能性は否定できないので、そこは気をつけたいところですね。

──そもそもなぜロシアのフーリガンは、イングランドやポーランドのフーリガンといざこざを起こすんでしょうか?

服部 もちろん理由があります。まずイングランドですが、ロシア人にはアンビバレントというか二律背反する感情があって、フーリガンの大先輩としてリスペクトしているから戦いたい、というのがあります。

──サッカーで勝つんじゃなくて、ケンカで決着をつけようと(笑)。

服部 そうしたフーリガンの心情がある一方で、国家的な対立というものがあります。ロシアはイングランドと争って、2018年大会の開催国となりました。その後、ロシアのドーピングスキャンダルがあった時に、ロシアの人々は「これに乗じてイングランドがワールドカップの開催権を狙っている」という陰謀論が出ているんですね。最近、ロシアの元スパイの父娘が暗殺されかける事件がありましたが、これもまた陰謀論の延長線上で語られていたりします。

尾崎 ここまで来ると、完全にスパイ小説の世界ですよね。あの事件後、英国だけでなくEU諸国でも、ロシアの外交官を国外退去させる決定をしていますが、いきなり国交断絶にはならないところに、まだ理性的なものを感じますね。

──「イングランド代表は今大会をボイコットするかも」なんて報道もありましたけれど、実施すれば間違いなくFIFAからペナルティーがあるので、おそらくそうはならないでしょうね。もうひとつ、ポーランドとの関係についてはどうなんでしょう?

服部 これはしばしば誤解されがちなんですけれども、近代、現代の歴史だけを見ると、ポーランドは「ロシアに支配された可哀想な小国」と見られがちです。でも17世紀初頭のロシア・ポーランド戦争では、ポーランドがモスクワを占領するという、ナポレオンやヒトラーも成し遂げられなかった戦果を挙げているんです。

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