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【無料公開】蹴球本序評『日本サッカー辛航紀 愛と憎しみの100年史』佐山一郎著

 尊敬止まない業界の先達であり、いち読み手としても大ファンである佐山一郎さんの新作。ご本人によれば、新書での上梓は「これが初めて」なのだそうだ。帯のアオリが「ハリルホジッチ更迭!/どうなる西野ジャパン!?/緊急出版」とあるが、こちらの記事でも明らかなように、少なくとも2年前から執筆が続いていた労作である。さっそく「はじめに」から抜き出してみよう。

 小・中・高等学校のほとんどの時間が一九六〇年代の東京にあった私は、どうやらチームを一から創らなければならぬ星回りにあったようだ。「サッカーどころ」といわれる地域と都内は違う。手頃な野球チームが近くにあれば、その時代の子どもらしく私もまたあの南北戦争の帽子と軍服に由来する厚着をしていただろう。決めつけてはいけないが、環境面をも含む野球諦め派の受け皿がサッカーだった。少なくとも私たちの少年時代までは。

 いかがであろうか? 本書は「100年史」とあるように、FA(イングランド・フットボール協会)から大銀杯が寄贈された1919年を起点に、現代までの日本蹴球界の歴史を振り返る歴史書である。とはいえ、著者と長年の交友関係にある後藤健生さんによる重厚な歴史書をイメージすると、いい意味で当てが外れる。

 前掲した「はじめに」からも推察できるように、本書は1953年に東京で生まれた「元サッカー少年」の始原的な記憶が随所に織り込まれている。東京五輪(もちろん64年の)で見たハンガリー対モロッコの記憶、舶来品だったアディダスのスパイクを見て「母を拝み倒せばなんとかなる」と思った記憶(私が生まれた66年の話だ)、週刊少年キングで70年から連載された『赤き血のイレブン』の記憶、などなど。

 いささか古い喩えになるが、ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『1900年』を想起させるような、ひとりの人生にフォーカスした日本サッカー絵巻として、思い入れたっぷりに読ませていただいている。そんな「元サッカー少年」佐山さんも、今年で65歳。「サッカーについて書く本は、もうこれで最期」だという。貪るようにページをめくりながらも、タイトルに「辛」の文字が埋め込まれている理由を知ると、いろいろ考えさせられる一冊だ。ワールドカップ開幕前に、ぜひ。定価900円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆☆

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