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【無料公開】蹴球本序評『監督の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めてこの稼業を・愛する・ようになったか』ひぐらしひなつ著

 ワールドカップ取材で留守にしている間も、各方面からさまざまな献本をいただいた。少し時間はかかるが、機会を見つけては御礼かたがた当コーナーで紹介していくことにしたい。今回は大分トリニータの番記者であり、歌人としても知られる、ひぐらしひなつさんの最新作。さっそく「はじめに」から引用しよう。

 

 どの監督も、ちょっと変。

 大分トリニータの番記者としてJリーグを取材する中で、出会ってきたたくさんの監督たちに対して、知れば知るほどふつふつと湧いてくるのは、そんな思いだった。

 もちろんこれは最大の賛辞だ。

(中略)どの監督もサッカーに対して本気すぎて、ちょっとだけ常軌を逸してしまったりしているのだ。ほとんどマッドサイエンティスト状態と言える。

 いかがであろうか。タイトルはスタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』へのオマージュである。本書に登場するのは、田坂和昭、片野坂知宏、北野誠、高木琢也、吉武博文という5人の監督。とはいえ、巷に溢れる監督本や戦術本とは明らかに一線を画する。

 ひぐらしさんの真骨頂は、愚直なまでに現場主義であることだ。もちろん試合だけでなく、日々のトレーニングにも足しげく通い続けることで監督の意図を読み取り、それを本人にぶつけては自身の中に消化していく。取材対象との信頼関係は、ひぐらしさんの「とにかく学びたい」という熱意と好奇心によって、より強固なものとなっている。だからこそ本書は、実に読み応えのある作品となっている。

 ところで上記した5人の監督には、ある共通点があることにお気づきだろうか。そう、いずれも九州を出自としている、あるいは九州のJクラブで指導した経験を持つ指揮官である。いわば、地の利を活かした取材の成果と言えるが、個人的にはこうした地域発の発信は非常に貴重だと思っている。たとえばV・ファーレン長崎の高木監督は、本来ならばもっと評価されてしかるべき指導者だが、J1クラブとなった今でも情報が少なすぎる。やはり中央のメディアからすると、長崎は(そして九州は)遠いのである。

 ひぐらしさんには今後も、大分を中心に九州発の良質な情報発信を続けていただいたい。と同時に、そろそろご本人にしか書けない、より大きなテーマにも取り組んでほしいと密かに願っている。個人的に読んでみたいのは、「溝畑宏以降の大分トリニータの物語」。この10年のクラブ史は大分のみならず、そのフォロワーである他の地方クラブにも、多くの教訓を含んでいるからだ。定価1500円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆★

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