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【無料公開】蹴球本序評『ディス・イズ・ザ・デイ』津村記久子著

 芥川賞作家による、2部リーグのクラブのサポーターたちにフォーカスした小説。普段フィクションを読まない私が、貪るように読み耽るくらい面白かった。さっそく第1話「三鷹を取り戻す」の冒頭部分を引用することにしよう。

 なんでそんな吐瀉物みたいな名前を付けるんだ、と中学生の時から貴志は思っていたし、貴志の周囲の中学生たちはより思っていた。三鷹ロスゲレロス。ロス・ゲレロスとは、los guererosと書き、スペイン語で「戦士たち」という立派な意味があるのだ、ということは大学でスペイン語の授業を出るようになって知ったのだが、わかりにくすぎるわ、と貴志は苦情を言いたくなる。中学生にそんな意図が理解できるわけがない。というか、そもそも三鷹をバカにしようと決めてかかっている連中がそんなことを調べるわけもないのだ。だからこそ、無難な名前でいてほしかったのだが、三鷹は「ロスゲレロス」とうっかり名乗りを上げてしまった。

 いかがであろうか? チーム名に関するくだりは、何となくカマタマーレ讃岐のことを想起させるし、「三鷹」という地名からは東京武蔵野シティFCのホームゲームが脳裏に浮かんでくる。特定のクラブを追いかけている方であれば、ページをめくるたびにリアルなイメージが像を結び、そのたびに「うんうん」と頷くことであろう。

 本書は、朝日新聞での同名の連載小説を書籍化したもの。J2をモデルにした、22チームで運営される国内リーグ2部の最終節11試合の情景と、当該チームのサポーターの心情が丹念に描かれている。北は「ネプタドーレ弘前」から南は「桜島ヴァルカン」まで、架空のクラブ名にはそれぞれエンブレムと順位とマスコットまでもが設定されており、そうした細やかさもまたサッカーファンの心をくすぐる。

 それぞれのエピソードは、対戦する両チームのサポーターの視点で描かれているが、ゲームに関する言及は決して多くはない。ストーリーの半分以上を占めるのは、職場の話だったり家庭の話だったり彼女(あるいは彼氏)との話だったり、要するに平々凡々とした日々の暮らしである。だが、変化に乏しい日常があるからこそ、週末のゲームは非日常的な輝きを放つ。そして登場する人々は「コアサポ」ではないものの、誰にも負けないクラブ愛や思い入れのある選手、そして大切にしている試合の思い出はいくつも胸に秘めている。

 ひとりひとりが持っている物語と、対戦相手のサポとの交流から生まれる新たな物語。さまざまな物語が、11月の最終節に向かって収斂されてゆき、さらに昇格プレーオフを描いたエピローグへとなだれ込んでいく。ディテールと世界観、いずれも完成度が高いので、とりわけJ2クラブのサポーターにはお勧めだ。なお作者の津村さんには、近日中に大阪でインタビュー取材をさせていただく予定なので、楽しみにお待ちいただきたい。定価1600円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆☆

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