スペインでスパイクを脱いだ男が漫画で世界を目指すまで 丸山龍也(株式会社ワンディエゴ丸出版社代表)<1/2>
今週は、ある元プロフットボーラーの数奇なセカンドキャリアについて、本人の言葉を引き出しながらたどってみることにしたい。丸山龍也さん、26歳。最近ではテレビ朝日の『激レアさんを連れてきた。』、あるいはワールドカップ期間中のニコ生での出演で、ご存じの方も少なくないだろう。今から4年前の2014年に日本を飛び出し、スリランカとリトアニアでプレー。その後いったん帰国するも、丸山さんは「チャンピオンズリーグに出場して、日本代表に選ばれる」という壮大な夢を諦めることはなかった。
結局、昨年7月のスペインでの練習参加で厳しい現実を突きつけられ、丸山さんは25歳でスパイクを脱ぐことを決断する。実は私自身、丸山さんとは以前から交流があったのだが、スペインに出発する連絡を受けて以降、しばらく音信が途絶えていた。その後、現役生活を終えたこと、メディアでの露出が増えたこと、そして新たに会社を立ち上げてビジネスを始めたことを風の便りに知る。現役引退後の話を聞くのなら、そろそろよいタイミングだろう。そう思って久々に連絡をしてみると、すぐに取材快諾の返事をいただいた。
取材が行われたのは、東京・世田谷にある個人の邸宅を改装した立派なオフィス。丸山さんへのインタビューは、大きく2つのテーマを設定していた。すなわち、現役生活を終えた今、どのようなビジネスを始めようとしているのか。そして、プロフットボーラーとしてのキャリアがどのような形で終わり、それをどのように消化したのか。取材を終えた今、「自分の夢との向き合い方」という、いささか重たい宿題を託されたような気がする。(取材日:2018年8月28日@東京)
<目次>
*きっかけは『激レアさんを連れてきた。』
*壮大な世界観の「ご当地サッカー漫画」
*Jリーグキングが主人公のマスコット漫画?
*スペインで終焉を迎えた「日本代表の夢」
*「自分は新しい人生に進んでいるんだな」
*漫画の世界から日本サッカーに貢献したい
■きっかけは『激レアさんを連れてきた。』
──今日はよろしくお願いします。いきなりすごいオフィスだったので、びっくりしているんですが(笑)。どういう経緯で、ここで事業を立ち上げることになったんでしょうか?
丸山 ここのオーナーは、もともとサッカーをやっていた人なんですけど、今はいろいろな事業を立ち上げては上手く回しているみたいです。ちょうど僕がリトアニアから戻ってきて、こっちで身体を動かしているときにサッカーつながりで知り合っていたんですけど、その時は連絡先とか知らなかったんです。それが3月にTVに出演したときに、たまたま見てくれていたみたいで。
──『激レアさんを連れてきた。』ですね(参照)。
丸山 はい。それで「こいつ知っているぞ!」ということになって、ある人の紹介でご自宅に遊びに行くことになったんですね。たまたまオーナーの息子さんが僕と同い年で、ブラジル人の奥さんとのハーフなんですけど、その彼と意気投合したんです。ディエゴっていうんですけど、ブラジル生まれの渋谷育ちで、中国に留学中に向こうの漫研の会長をやっていたという面白いやつなんです。いろいろ話しているうちに、僕がやってきたサッカーと彼が夢中になっている漫画を使って「何かビジネスをやろう!」ということになりまして。
──それで今年8月に会社を立ち上げたと。いただいた名刺には「株式会社One DiegoMaru P.com」とありますが。
丸山 ディエゴと丸山の2人が代表取締役で、「P」というのはパブリッシング。なので、正式名称は「株式会社ワンディエゴ丸出版社」ですね。ちなみにディエゴは、マラドーナのファーストネームにあやかったらしいですが、本人はあまりサッカーをプレーするのが乗り気でなかったみたいで、むしろ漫画のほうが大好きという。
──なるほど。ところで何人か若いスタッフの姿が見えますけど。
丸山 みんな役員なんですけど、今は5人でやっていまして。横浜国大から大王製紙という大企業を務めていたけれど、辞めてこっちに来たとか。青学を出て三菱UFJの不動産に就職したのに、辞めてこっちに来た女の子とか。みんな同世代です。
──結構、いろんな人生を巻き込んでいるみたいですが、大丈夫ですか(笑)? いずれにせよTV出演したことが、ひとつの人生の転換期になったのは理解できました。では「サッカー漫画のビジネスをやろう」というアイデアは、どこからでてきたんでしょうか。
丸山 僕がリトアニアでプレーしていたとき、いろんな国のチームメイトがいたんですね。ウクライナ、ロシア、セネガル、ガーナ、そして監督がイタリア人。基本的には英語でコミュニケーションしていたんですが、ある試合で僕は監督から「ドリブルをしすぎる」と注意されたんです。その時に「お前は『キャプテン翼』か?」と言われたんですね。それを聞いていたチームメイトも、クスクス笑っていたんですよ。
『キャプテン翼』って、特にアニメだと翼くんと岬くんが地平線の向こう側から、ずっとドリブルしているイメージがあるじゃないですか(笑)。それを国籍の違う彼らは全員、イメージを共有しているわけです。日本から遠く離れたリトアニアで「お前は『キャプテン翼』か?」と怒られるのって、ちょっと面白いなって思ったんです。
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