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宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】FC町田ゼルビアが「東京」を名乗る日 IT企業の子会社化は何をもたらすか?

【編集部より】2019年9月8日に無料公開としました。

 先週の木曜日から、FC町田ゼルビアがJリーグ関連ニュースのセンターをキープしている。9月27日、来季のJリーグクラブライセンス判定について、町田にJ1ライセンスが交付されないことが発表された。28日、大手IT企業のサイバーエージェントが、町田を買収する方針を固めたとスポーツ報知が報道。さらに29日には、同社のグループ子会社であるCygames(サイゲームス)が「サガン鳥栖のスポンサーを降りる」と、やはり報知が報じている。そして10月1日、サイバーエージェントが都内で会見を開き、株式会社ゼルビアが発行する8割の株を取得し、子会社化することを発表した。

 今季の町田は10月1日現在、J2リーグで3位(2試合未消化)。9試合連続負け無し(7勝2分け)で、第30節から3試合連続で首位に立った。順位的には、自動昇格圏内の2位以内を十分に狙える位置につけているものの、残念ながら町田にはJ1ライセンスがない。スタジアムがJ1基準となる1万5000人収容に満たないことも要因だが、それ以上にネックになっているのが専用のクラブハウスと練習場がないこと。ちなみに3年前のツエーゲン金沢も、今の町田と似たような状況であったが、行政の後押しでクラブハウスと練習場の用地を確保したことで、16年のJ1ライセンスが交付されている。

 今回の町田の件で、もうひとつ思い出したのが、昨年のV・ファーレン長崎をめぐる状況であった。長崎の場合、J1ライセンスは交付されていたものの、開幕前に経営問題とガバナンスの欠如が明らかになり、現場は混乱を極めた。そんな中、まず英会話教室のNOVAホールディングスが出資を打診。しかし同日、ジャパネットホールディングスがクラブを100%子会社化する意向を表明し、これが受け入れられる。経緯は異なるものの、いち企業がクラブを子会社化するという類似点から、長崎と町田の事例を比較するのは決して無駄ではないように思える。

 町田の子会社化について、まず気になったのは「社長はどうなるのか」であった。長崎の場合、経営陣が一挙に刷新され、社長にはジャパネットの高田明氏が就任したのは周知のとおり。そもそもクラブの経営悪化は旧経営陣が招いたことであったし、高田氏はスポーツビジネスの経験こそなかったものの経営の実績と知名度は抜群。そして何より高田氏には、地元・長崎県に対する深い愛情と「地域を何とかしたい」という強い使命感があった。今季の長崎はJ1での苦戦が続くが、そうしたトップの思いは着実に周囲に浸透していることを感じる。

 では、町田はどうか。先の会見では、大友健寿社長の留任が発表されている。町田の場合、J1ライセンスは交付されなかったものの、経営面で特段の問題があったわけではない。加えて、少年時代から前身のFC町田にずっと関わり、Jリーグを目指すようになってからもフロントとして尽力してきた大友氏は、いうなればクラブを象徴するような存在。個人的な経験で言えば、『股旅フットボール』の取材で関東リーグ時代の町田を取材した際、最初にインタビューに応じてくれたのが大友氏であった。そんな経緯もあったので、とりあえず社長留任のニュースに、いったんは胸をなでおろした次第である。

 むしろ留意すべきは「(東京)ヴェルディさんとは、最初の経緯があるので接触はしたが、お話が合わなかった」と、近隣のライバルクラブについてサイバーエージェントの藤田晋社長が言及していたことであろう。同社は06年、日本テレビに次ぐ第2の株主としてヴェルディに出資していたが、成績不振などを理由に2年で撤退したという経緯があった。いわば「仁義を切った」ということだが、実はヴェルディに関しては「同業他社から胸スポンサーの話が進んでいる」との情報も耳にしている。いずれにせよ、サイバーエージェントにとっての「第一志望」がヴェルディだったのは間違いないだろう。

「買い手」にとってのヴェルディの魅力は、今でもブランド力があること、それなりに固定ファンを抱えていること、勝手知った部分が少なくないことに加えて、「東京」をホームタウンとしていることに圧倒的な魅力を感じていたと推察される。その後、ターゲットを町田に変えたのも、「ヴェルディの近所で活動している」ことに加え、11億5000万円という大手IT企業としては実にお手頃な金額で株式の大半を取得できることも大きかったはずだ。少なくとも長崎のように「地域を何とかしたい」という思いとは、別のところに力点が置かれていたと考えるのが自然である。

 この見立てが正しいとするならば、FC町田ゼルビアが「東京」を名乗る日は、決して遠い未来の話ではないだろう(こちらを見ても「東京・町田」というフレーズが頻出している)。理屈としては「J1ライセンスを取得するには、町田の中だけで活動するには限界がある」で十分。もちろん「町田」の名前を残してホームタウンの広域化を図ることは、選択肢としてないわけではない。しかし、神奈川県に打たれたクサビのような町田市に隣接する、都内の自治体は八王子市と多摩市のみ。前者は面積と人口で町田を上回り、後者は以前よりヴェルディ支援を表明している。どちらも広域化の候補としては、二の足を踏むほかないだろう。

 あるいはサイバーエージェントが、「われわれは町田と共に成長していきます」という考えで、クラブを子会社化した可能性もゼロではないかもしれない。しかしながら、彼らはジャパネットのように地域へのこだわりが特段に強いわけではないし、町田との地縁も皆無である(サイバーエージェント創業の地は東京の渋谷であり、藤田社長の出身地は福井県の鯖江市)。それにもし町田にこだわっているのであれば、「ヴェルディに仁義を通す」ことなどせず、ダイレクトにアプローチしていただろう。そうしなかったところに、彼らが何を第一に求めているのか、うっすらと見えてくる。

 私自身、町田との付き合いはそれなりに長いので、クラブとサポーターの地元愛や誇りといったものを肌感覚で理解しているつもりだ。その一方で、ライセンスがなかなか下りないという現実も、たびたび目にしてきた。スタジアムの要件については、21年2月完成予定の改修工事でクリアできそうだが、専用クラブハウスと練習場の確保という課題は依然として残る。人口43万人。典型的な住宅街で構成される町田市内において、J1クラブを成立させることは可能か否か? その見極めをめぐる議論が、クラブの進む道を決することだろう。

 まだ現在進行の話であり、新たな展開もありそうなので、これ以上の断定的な言及は控える。今後の進捗を注視しつつも、最後に10年前の個人的な思い出をもって本稿を締めくくることにしたい。08年の11月下旬、沖縄は石垣島で行われた全国地域リーグ決勝大会。ここを勝ち抜いて、全国リーグの扉を開いたのが、町田と長崎であった(もう1チームはホンダロックSC)。両者は同期でJFLに昇格し、町田は12年に、長崎は13年にJ2に昇格している。ただし長崎がJ2にたどり着いたと同時に、町田は入れ替わるようにJFLに降格。両者は何かと因縁浅からぬ関係にある。

 あれから10年。スタジアムの問題を抱えながら、JFLで4年の足踏みを強いられた末にJ2に這い上がり、紆余曲折を経てトップリーグにまで上り詰めた長崎。一方、J2からJFLに降格した唯一のクラブとなり、3シーズンの3部暮らしを経て16年にJ2に復帰した町田。そして今、両者はJ1とJ2のあわいにおいて、異なる課題に直面しながらも未来を切り開こうとしている。それぞれの今季の戦いが、どのような結末を迎えることとなるのか。10年前の歓喜を取材したひとりとして、しかと見届けたいと思う。

<この稿、了>

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