宇都宮徹壱ウェブマガジン

なぜMLSはひとりひとりの顧客と向き合うのか? 収入の6割を占めるチケットセールスの秘密に迫る

 激動の2018年シーズンが(ほぼ)終了したJリーグ。プレーオフと天皇杯の当事者を除く、多くサポーターが今季の余韻に浸る中、すでに各クラブは来季に向けた動きを見せている。最もわかりやすいところではチーム編成だが、それ以上に早く動かなければならないのがチケッティング。「来年のシーパス(シーズンパス)どうしよう?」とサポーターが思案する中、各クラブのチケット担当者は今まさに繁忙期の佳境を迎えていることだろう。

 今回は久々に、スポーツビジネスに関する話題をお届けする。今週月曜日、都内で開催されたパ・リーグビジネススクールを取材する機会があった。これは、パシフィックリーグマーケティング株式会社(PLM)が主催する勉強会で、今年で2回目。今回の講師は、Blue United CorporationのCEO、中村武彦さん。そしてMLS National Sales Center(NSC)のマネージャー、ステファニー・ヤコブソンさんである。ちなみにPLMについては、当WMで以前取材していて(参照)、中村さんとは今年2月に開催されたパシフィック・リム以来の再会である(参照)

 今回のビジネススクールの対象は、パ・リーグ球団の職員のみ。会場を訪れてみると、20代から30代の若い世代が多く、ほぼ全員が濃紺のスーツ姿であった。それにしてもプロ野球のスタッフに対して、なぜMLSのチケッティングの話を聞かせるのか。この素朴な疑問に対して、「スポーツマーケティングに競技の違いは関係ないですよ」と中村さん。しかしそれとは別に、「アメリカのスポーツでMLSが最もチケットを売り上げている」という事実を見逃してはならない。中村さんによれば、MLSの全収入の実に6割がチケットセールスによるものだという。

 プロサッカーリーグの主な収入源といえば、まず思い浮かぶのが放映権料。しかしMLSの場合、4大メジャースポーツがある中での後発だったため、最初はどの局も様子見であった。そこで彼らが採った策は「チケットを売って、まずはスタジアムを満員にすること」。スタンドが満員になってチケットの入手が困難になれば、リーグとしての価値が高まり、そこでようやく放映権の話になるわけである。そして、このチケットの売り上げに大きく貢献したのが、ステファニーさんがマネージャーを務めるNSCであった(参照)

 実はこのNSC、MLSの肝いりで2010年に作られた、チケットを売る人材の育成機関である。ステファニーさん自身、ここの20期生。「8年前にできたのに20期生?」と思われるかもしれないが、NSCではチケッティングのノウハウを2~3カ月で身につけるカリキュラムを採用している(通常なら半年以上かかるそうだ)。これまでに442人が受講し、そのうち332人がMLSのクラブに就職。各クラブは20~30人のチケット担当スタッフを抱えているため、需要は多いそうだ。

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