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かーねる流「働き方改革」がガイナーレ鳥取を変える! 高島祐亮(株式会社SC鳥取経営企画本部長)<1/2>

 2018年の国内サッカー界を振り返る時、オフ・ザ・ピッチにおいて同時多発的に異彩を放っていたのが、IT業界のセレブリティやインフルエンサーたちであった。楽天の三木谷浩史会長がプライベートジェットでイニエスタを連れてきたり、サイバーエージェントの藤田晋社長がFC町田ゼルビアの買収を発表したり、そしてスナップマート元社長のえとみほさんが栃木SCのフロント入りしたことも話題になった。

 もっとも、こうした現象は何も今年になって突然起こったわけではない。実のところ去年から地方のJクラブに飛び込み、粛々と組織改革を進めながら具体的な成果を挙げている、元IT業界の凄腕もいるのである。それが今回ご登場いただく「かーねる」こと高島祐亮さん。今年38歳のかーねるさんは、2つのベンチャー企業で50以上のスタートアップに関わり、2社とも上場に大きく貢献するという華々しい経歴の持ち主である。

 そんなかーねるさんが、一念発起してSHC(スポーツヒューマンキャピタル。当初はJHCJリーグヒューマンキャピタル)の1期生となり、これまで抱えていた仕事を整理してJリーグに転職。すぐさまJ3のガイナーレ鳥取に出向となり、「経営企画本部長」の肩書でクラブ経営の改革に着手したのが昨年7月のことであった。その具体的な成果は、入場者数の上昇で、昨年の1559人から今年は2657人。前年比170%、リーグ全体で8位という結果となった(参照)

 かーねるさんとは、今年4月の鳥取取材で初めてお会いした(参照)。その後、この人が書いているnoteを拝読するうちに、さらにお話を伺う必要性を感じたので上京したタイミングでお時間をいただいた。IT業界からの「尖兵」として、地方のJクラブでさまざまな改革を実行してきたかーねるさん。その活動は業務のIT化や芝生のビジネス「Shibafull」など多岐にわたるが、本稿では特に「Jクラブでの働き方」にポイントを絞って、お話を伺った。(取材日:2018年10月26日@東京)

<目次>

*「自分が社長だったら」を常に意識している

Jクラブにマネジメント経験者が少ない理由

*「クラブ愛」で働いてしまうことの是非

*「地方だから」というのは言い訳にならない

*あえて「サッカーを知らない人」を採用したい

*「IT系」を活かすも殺すも社長次第?

「自分が社長だったら」を常に意識している

──今日はよろしくお願いします。鳥取から東京には、どれくらいの間隔でいらしているんでしょうか?

高島 月1か月2くらいですね。Jリーグから出向しているので、御茶ノ水のJFAハウスに月1で報告に行っています。それ以外にも営業をして、関東のアウエーがあれば帯同して、それから鳥取に戻るという感じですね。今日も久々に渋谷を歩きましたが、人酔いしてしまいました(苦笑)。すっかり鳥取の環境に馴染んでいるんでしょうね。

──かーねるさんは単身赴任で、鳥取に1年暮らしてきたわけですが、向こうでの生活は気に入っていますか?

高島 本当に「住めば都」ですね。食べ物は美味しいし、物価も安いし。ただ最初のうちは、試合がない週末をどう過ごすかが課題でした。何しろまったく地縁がなかったですから。でも、そのうちSNSや異業種交流会を通じて、同世代の経営者ですとか、鳥取で活動している写真家の方ですとか、ヨガのインストラクターですとか、そういった方々とつながるようになりました。特に地方で頑張っている個人事業主の方は個性があって面白いです。

──かーねるさんも、そう思われているでしょうね(笑)。何しろスタートアップ系の経営者が、ガイナーレ鳥取で働いているわけですから。あらためてガイナーレでの1年を、ご自身ではどう捉えているか教えてください。

高島 仮説と検証を繰り返す1年でしたね。ある意味、こちらの読みどおりに進んでいる部分もあるんですが、自分の理想像はもっと高いところにありますので。

──読みどおりに進んでいる部分というのは、具体的にはどのあたりでしょうか?

高島 組織に関することですね。スポーツビジネスの世界って、たとえばチケットレスみたいな「未来の話」になりがちですけど、根本にあるのはそれを動かす人だと思っています。その人の目線を「こなす仕事」から「伸ばす仕事」に、いかにもっていくかということを僕は重視していて、そこがないといくらIT化したところで事業も組織も成長しないんですよ。

──Jクラブの仕事って、良くも悪くも「こなす仕事」になりがちですよね。そこを改善するという意味では、IT系というよりもむしろ社内コンサルに近い感じでは?

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