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森保スタイルは「ジャパンズ・ウェイ」なのか? 後藤健生✕中野和也✕宇都宮徹壱<4/4>

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なぜ今さら「ジャパンズ・ウェイ」?

──ここからは、今回のイベントのもうひとつのテーマである「ジャパンズ・ウェイ」について考えてみます。ワールドカップのセネガル戦で、日本が22で引き分けた試合を見た田嶋幸三会長が「これがジャパンズ・ウェイだ!」と記者に語ったことから、この言葉がメディアを通じて一般に広まるようになりました。もともとこの言葉は、06年に技術委員長だった小野剛さんが提唱したもので、最近はJFAの中でも語られることはなかった。それが今回のワールドカップでいきなり復活して、森保新体制がスタートする説得材料となったように私には感じられるのですが(参照)

後藤 「ジャパンズ・ウェイ」というのを小野剛が言い出したような感じになっているけれど、日本のサッカーは90年くらい前からずっとジャパンズ・ウェイだったわけですよ。昔々、蹴って走るイングランドスタイルが主流だったのが、1860年代のオフサイドのルール改正によってスコットランド人がパスサッカーというものを発見した。そのスタイルが、オーストリア、チェコ、ハンガリーと広がっていく。

 実は日本もけっこう早い時期にパスサッカーと出会っていて、第一次世界大戦後にシベリアからヨーロッパに帰国する途中で日本に立ち寄ったチェコ人が伝えたと言われていますね。そして、スコットランド人からサッカーを習ったビルマ(現ミャンマー)人留学生のチョウ・ディンが日本全国の旧制中学生にコーチをしてパスサッカーを伝えた。

──そのあたりの話は、賀川浩さんの本に詳しいですよね。

後藤 そうですね。少なくとも戦前には、パスをつなぐという日本のスタイルが確立していて、それで36年のベルリン五輪でスウェーデンを破ったんですよね。ところが戦争を経て日本サッカーは弱体化してしまい、アジア大会でフィリピンにも負けるくらい下手くそになってしまう。クラマーさんが代表コーチとして来日するまで、下手だから蹴って走るという状況が続くんですが、基本的に日本のスタイルはパスサッカーであると、僕はずっと思っている。ただ、それを「ジャパンズ・ウェイ」というネーミングがふさわしいとは思わない。もっと日本的な表現でいいと思うんだけど。

──「和式」というのはどうです(笑)?

後藤 「和式蹴球」ね。まあ、名前なんかどうでもいいんだけど、せっかく本来のスタイルがあるんだから、そこは大事にしたほうがいいと僕は思いますね。

中野 スタイルの話でいうと、僕は森保さんのスタイルがパスサッカーだなんて思ったことないです。森保さんが得意としているのは、むしろ「カウンター」なんですよね。攻撃に関して、自陣でパスを回すのはビルドアップのためではなく、相手を呼び込んでスペースを裏に作らせておいて、カウンターができる状態にするためにやっています。バルセロナのようにパスで崩すのではなく、むしろユルゲン・クロップ時代のドルトムントに近いところを目指しているのではないでしょうか。

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