宇都宮徹壱ウェブマガジン

わが平成史 写真とフットボールを巡って 初めてのワールドカップ(平成10年/1998年)

 私が「ワールドカップイヤー」という言葉に、通常のサッカーファン以上の熱を感じてしまうのは、私自身がワールドカップイヤーの生まれであることと決して無縁ではないように思う。私が生まれたのは1966年(昭和41年)。フットボールの母国でワールドカップが開催された年だ。初めて大会そのものを認識したのは、12年後のアルゼンチン大会。昭和のサッカー少年だった私は、以来4年ごとに開催されるワールドカップを、何となく意識しながら堅い土のグラウンドで必死にボールを追いかけていた。

 86年(昭和61年)のメキシコ大会と90年(平成2年)のイタリア大会は、大学のサッカー部の仲間たちとTVで見た記憶がある。だが当時の日本のサッカーファンにとって、ワールドカップは文字通り「夢のまた夢」の世界。94年(平成6年)のアメリカ大会も、TV制作会社で徹夜の作業をしながら横目で見ていた。そんな遠い世界の出来事が、初めて「わが事」となったのが、この年のフランス大会。日本代表が初出場となったワールドカップに、私も初めて現地参戦することとなったのである。

 もっとも、この時の私は今のように、アクレディテーションパスを持っていなかった。すでに写真家を名乗り、旧ユーゴスラビアでの旅の物語で書籍デビューを果たしたものの、日本のサッカー業界での実績はまったくのゼロ。日本代表やJリーグの取材現場からも、遠い場所にいたのだから当然だろう。加えてこの大会は、チケットでの観戦も難易度が高く、日本戦に至っては絶望的ですらあった。そんなわけで私は、取材パスはもちろんチケットさえ持たずにフランスに旅立ち、しかも大会期間中はずっと現地に滞在していたのである。

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