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【無料公開】国内外のフットボール映画をフェスのように愉しむ 福島成人が語るYFFF2019の見どころ<1/2>

「ブラジルサッカーの混沌」を感じさせる2作品

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──ヨーロッパに続いて、今度は南米の映画にいってみましょうか。まずは17日() 15時35分上映の『カイザー!』。制作はイギリスとブラジルとなっていますが、ブラジルの国内リーグを舞台にしたドキュメンタリーですね。カイザーというのは「プロ選手なのに試合に出ることを避け続けて、それでも1ゴールを挙げている」ということで、日本でもニュースになりました(参照)

福島 とにかく考えられないキャリアなんですよ。カイザーというのは、子供の頃に「ベッケンバウアーに似ていたから」というので付けられたニックネームなんですが、20年の間にボタフォゴ、フラメンゴ、フルミネンセ、バスコ・ダ・ガマというリオの4大クラブと契約しているんですよね。それなのに「プレーをせずに金をもらう」方法を編み出して実行するという、まあ詐欺師なんですけど(笑)。

──これって、本人が出てくるんですか?

福島 そうです。本人がどんな手口で試合をサボり続けたかを語っていて、再現シーンでは俳優さんが演じています。あと、この人はわりと交友関係がすごくて、ジーコとかベベットとかレナト・ガウショといった人たちが「そういえばあの時」みたいな感じで証言者として出てくるんですよね。

──この人、そんなにサッカーは下手ではなかったみたいですね。プレーをしてお金を稼いだほうが、絶対に楽しいと思うんですけど、そうはしなかったと。

福島 試合に出そうになると「ちょっと筋肉に違和感が……」とか言って切り抜けるという(笑)。それで20年間もブラジルのプロクラブに所属し続けるというのが、またすごい話で、まさにブラジル版『激レアさん』ですよね。この人にとっては「サッカーが好き」というよりも、家族を養うためにお金がほしいというのが一番だったみたいです。

──なんだかさまざまな矛盾をはらんだブラジルサッカーの混沌を見るような作品ですよね。ブラジルからもうひとつ、同じ混沌でもかなりシリアスな作品です。17日() 15時50分上映の『わがチーム、墜落事故からの復活』。16年の11月にチャーター機が墜落して、多くのメンバーが犠牲になった、ブラジルのシャペコエンセのドキュメンタリーということですが。

福島 そうです。われわれ日本のサッカーファンにとっては、犠牲者の中に元Jリーガーが含まれていたり、事故後にチームが来日して浦和レッズと対戦したり、といったところが記憶に新しいと思います。監督はマイケルとジェフリーのジンバリスト兄弟で、以前にYFFFで上映した『ふたりのエスコバル』や『ペレ 伝説の誕生』の監督としても知られています。

──あのジンバリスト兄弟の作品だったら、かなり期待できそうですね!

福島 期待していただいていいです。こういう悲劇を扱った作品というのは、悲惨な状況から立ち直っていくプロセスが描かれることが多いと思うんですよ。でもこの作品は、事故後の一筋縄ではいかない当事者たちの状況というものを、実に丹念に描いています。

 たとえば、事故を起こした航空会社は倒産してしまって、遺族やクラブにも保証金が支払われていないとか。クラブとしては経営を立て直すためにメディアに訴えていくわけですが、生還した選手がその役割を担わされて苦悩するとか。クラブを再建するための役員会にもカメラが入っていって、そこではかなりエグい話もたくさん出てくるわけです。

──要するに「美談」では終わらない、ということですよね。

福島 そうですね。映画のパンフレットに、Jリーグの村井(満)チェアマンがメッセージを寄せているんですが「この作品は世界のすべてのサッカークラブに起こり得る喜怒哀楽が内包されたドキュメンタリーである」と。悲劇から立ち直るという話ではあるんですけど、むしろクラブが存続していくことの大切さというものを、あらためて考えさせられる作品になっていると思いました。

<2/2>はこちら。

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