宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】国内外のフットボール映画をフェスのように愉しむ 福島成人が語るYFFF2019の見どころ<2/2>

「映像作家としての植田朝日」をどう評価するか?

©『ドーハ1993+』製作委員会

──最後は日本の作品をご紹介いただきたいと思います。まずは17日() 17時55分上映の『ドーハ1993+』。監督はウルトラス・ニッポンの植田朝日さん。最近は精力的に映画を作っていますね。

福島 朝日さんは去年『ジョホールバル1997 20年目の真実』を制作して、YFFFでも上映しました。日本がワールドカップ初出場を決めた「ジョホールバルの歓喜」について、代表監督だった岡田武史さん、ゴールデンゴールを決めた岡野雅行さん、それから井原正巳さんや名波浩さんといった方々にもインタビューしている作品です。今度の作品は、そこからさらに4年遡って、いわゆる「ドーハの悲劇」がテーマとなっています。

──タイトルに「+(プラス)」が付いているのが、何やら意味がありそうですね。

福島 まさにそうです。今、アジアカップをやっていますけれど、宇都宮さんは8年前の決勝を覚えています?

──もちろん。日本対オーストラリアで、会場はドーハ……あ、なるほど(笑)。

福島 加えて4年後、ドーハは2022年ワールドカップのメイン会場となるわけです。つまり日本サッカーにとって「ドーハ」は、決して悲劇だけではないということですね。単なる思い出話だけでは終わらない、日本のサッカーファンにとっての「ドーハ」を問い直すというのが、この作品のテーマになっています。

──福島さんは「映像作家としての植田朝日」をどう評価しています?

福島 一般的な映画ファンからすると、朝日さんを映像作家と認めるかどうかという話になるかもしれないですね。ただ、「植田朝日にしか撮れない」という強みというものは間違いなくあると思います。彼自身はもともとサポーターであり、ドーハにしろジョホールバルにしろ、当事者として現場にいたわけです。しかも選手とサポーターとの距離感は、当時と今とではぜんぜん違いますからね。ですから、当時選手だった人へのインタビューでも、他の人には真似できない間合いのとり方ができる。そういう人が、こうやって映画として記録に残すことって、すごく大事なことだと思いますね。

©「蹴る」製作委員会

──最後は16日() 15時20分の『蹴る』YFFFではすっかりお馴染みの中村和彦監督の作品で、電動車椅子サッカーのワールドカップに出場する日本代表を追ったドキュメンタリーです。中村監督といえば前作『MARCH』がイギリスで賞を獲得して話題になりましたが、この作品は6年かけて作られたんですよね。

福島 ワールドカップの開催が、当初の予定から2年延びてしまうという予想外の事態があったので、その間に中村監督が手がけたのが『MARCH』だったんですよね。それで電動車椅子サッカーなんですが、他のハンディキャップサッカーとは障がいの度合いがぜんぜん違うんですよ。筋ジストロフィー症や脳性麻痺、脊髄損傷とか。それで中村監督は、まず介護福祉の講習を受けて、選手の身体の有り様を理解してから取材しているんです。

──女子のろう者(デフ)サッカーを追いかけた『アイコンタクト』の時は、聴覚障がいの選手と接するために手話を勉強していましたからね、中村監督。撮影対象へのアプローチが本当にすさまじい。だからこそ、あれだけ説得力のある作品を生み出せるんでしょうね。

福島 この作品を観た人は、皆さん絶賛していましたね。もちろんスポーツの面白さもあるんだけど、僕らがなかなか知りえない彼らの日常生活や恋愛事情まで描かれていたり。とにかく「すごい!」の一言です。

──確か中村監督の作品がYFFFで上映されるのは、これで4作品目ですよね。おそらく最多だと思うのですが?

福島 最多ですね。朝日監督が3本。海外だと、ジンバリスト兄弟とアンディバティアール・ユスフ監督も3本です。フットボールに限定した映画祭を9回も続けていると、どうしても同じ監督の作品が上映される傾向が出てきますね。

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