宇都宮徹壱ウェブマガジン

第1回「祝! ホーム開幕」 徹壱スマホ写真塾・塾長講評

 今シーズンが開幕して、何度目かの週末がやってきた。応援しているチームが上位争いをしていても、あるいは下位に沈んで早々に監督が解任されていても、共通する思いは「開幕がずいぶん遠く感じられる」ことであろう。期待と不安が入り混じりながらも、まっさらな気持ちで臨むことができた、ホーム開幕。そんな心象風景を、お手持ちのスマホで表現してほしい──。そんな思いから、徹壱スマホ写真塾の第1回のお題を「祝! ホーム開幕」とさせていただいた。

 果たして、どれだけの応募があるのだろう? こちらも期待と不安が入り混じりながら待っていたのだが、タイミングが悪かったのか、それともお題が難しかったのか、告知開始から10日ほどはまったくのリアクションなし。「こりゃあ、企画倒れになるかも」という不安がよぎったが、その後はぽつぽつと作品が送られるようになり、最終的には7名の会員からの応募となった。当塾の「オリジナル7」となってくれた皆さんには、この場を借りて心から感謝したい。

 今回は作品数が少なかったので、応募していただいた7作品すべてを講評する。その前に参考作品として、3月24日に行われたFC今治のホーム開幕戦で、私が撮影したもの(iPhoneXを使用)をアップしておく。記者ルームから窓ガラス越しで撮影したため、蛍光灯が写り込んでしまっているのはご愛嬌(笑)。ピッチの向こう側に瀬戸の海が見えるのは、夢スタならではロケーションである。あえてサポーターを画面から除外し、開幕のキックオフを迎える期待感と緊張感が伝わるよう、奇をてらわないフラットな構図にしてみた。

 今回の塾生諸君の作品を見てみると、残念ながら「これぞ開幕戦!」という空気感が、いささか乏しいように感じられた。それは撮影技術の問題ではなく「ものの見方」や「感じ方」の問題だと思う。構図をはじめとするテクニカルな指南はいくらでもできるが、「ものの見方」や「感じ方」についてサポートするのは難しい。それでも当塾では、可能な限りヒントのようなものは提示していくつもりだ。少しでも皆さんの撮影上達に寄与することで、スタジアム観戦がより楽しくなることを当塾では目指したい。

【01】ケンイチさん(大阪府)「下部リーグほどボーダーレス(心理的にも物理的にも)」

 3月17日にならでんフィールドで開催された、奈良クラブ対ヴィアティン三重によるJFL開幕戦。あいにくの雨模様だったが、三重のマスコットであるヴィアくんと奈良サポの奥様との絡みが楽しい1枚となっている。単なる記念撮影としては、まったく問題ない。が、ここからワンステップ上達すれば、さらに撮影が楽しくなるはずだ。

 ケンイチさんはスマホの撮影モードを、パノラマに設定しているようだ。横位置で風景写真を撮影するのには問題ないが、パノラマモードの縦位置で人物を撮影すると、どうしても窮屈な構図になりがち。この場合、横位置で撮影したほうが、構図的にも収まりはよかっただろう。

 スマホ撮影の場合、スティルでも動画でも無条件で縦位置を選択する人が多いように感じる。いい構図で撮ろうと思ったら、常に頭の片隅に「横の場合はどうだろう?」と意識すること。ほんの少し意識しただけで、構図のバリエーションは格段に増えるはずだ。

【02】R.KATOさん(神奈川県)「戻ってきた週末」

 3月2日にIAIスタジアム日本平で開催された、清水エスパルス対ガンバ大阪のゲーム。R.KATOさんは20代だが、かなりヘビーな清水サポである。「戻ってきた週末」というタイトルに、まず好感が持てた。撮影ポイントは、メインスタンド裏側の高台から。あえて引いた視線で撮影するという狙い自体は悪くないと思う。

 ただし、こちらも構図が残念。手前のごちゃごちゃした要素を画面から外すだけで、もっとすっきりと「開幕戦のスタジアム」を表現することができたはずだ。スマホ撮影の利点は、画面上で構図を確認しやすいところにある。少しでも構図や画角を工夫するだけで、作品の見え方はまったく変わってくるので、ぜひ再チャレンジしてほしい。

【03】kotaroさん(長崎県)

 2月24日にトランスコスモススタジアム長崎で行われた、V・ファーレン長崎対横浜FCで撮影された作品。塾長の好みを見透かしたかのように、マスコットをモティーフにしていて、いささかのあざとさが感じられる(しかもヴィヴィくんだし)。それとkotaroさん、タイトルは必ず付けるように! 大切な作品の一部なので。

 この作品、【01】のケンイチさんと同様、パノラマモードの縦位置という構図。ただしこの作品に関しては、無駄な要素を一切配して構図的には非常に上手くまとまっていると思う。画面下の余白も、ヴィヴィくんの顔とイラストに視線を誘導させる役割をきちんと担っている。狙っていたとしたら大したものだ。

【04】351shiga16さん(兵庫県)「雨のち晴、出陣」

 3月17日、東近江市布引運動公園陸上競技場で開催された、MIOびわこ滋賀対鈴鹿アンリミテッドFCでの作品である。こちらも雨模様での撮影となったが、表現しようとする対象が絞りきれていない印象。現場に到着して、ただ漫然とシャッターを切ってしまっている。

 ものすごく単純化して言えば、写真表現とは「空間と時間を切り取る」ことに尽きる。目の前に広がる世界から「何を」「いつ」切り取るのか。このシチュエーションならば、曇り空とフラッグにフォーカスしたほうが良いだろうし、さらに言えばフラッグが風にはためく瞬間を待つべきだった。この次は「何を」「いつ」にこだわっていただきたい。

【05】くりはらさん(千葉県)「2019年はラグビーと共存共栄」

 3月10日、味の素スタジアムでのFC東京対サガン鳥栖での試合にて。くりはらさんによれば、この日行われた「ラグビーの畠山健介さんの試合前スピーチも素晴らしかった!」そうである。この説明文を読んで、ドロンパのぬいぐるみがラグビーのジャージを着ている理由も理解できた。

 この作品も構図が漫然としている。タイトルのイメージに沿うならば、よりクローズアップして桜のエンブレムを強調すべきであった。撮影ポジションも向かって右側に寄せて、奥行きを見せたほうが味スタらしさを表現できただろう。画面から余分な情報を排除して、見せたいものをきちんと見せる。そのためには、撮影者はもっと身体を動かす必要がある。

【06】スミヤマさん(長野県)「映画・クラシコの10年後の始まりに」

 3月9日、サンプロアルウィンでの松本山雅FC対浦和レッズの試合にて。被写体は、かつての山雅の選手で、今は運営スタッフとして働いている小林陽介さんである。被写体も撮影者も、映画『クラシコ』に登場していて、地域リーグ時代から苦楽を共にした関係性が上手く表現されていると思う。

 それだけに、この作品も不必要な要素が多すぎるのがもったいない。特に邪魔なのが、右側の樹木と左側のしゃがんだ人物。撮影者が少しだけ右にポジションをずらすだけで、右側の樹木は被写体から離れ、左側の人物は被写体に隠れる。さらに画角を絞れば、もっとすっきりした構図になっていただろう。惜しい!

【07】やぎ夫さん(東京都)「風呂本 2018 → 2019」

 ベガルタ仙台サポのやぎ夫さんの作品。「今年はホーム開幕に行けなかったので、この催しには参加できないかなと思ってましたが、募集少なめ!とのことでしたので、ダメもとでお送りさせていただきます」とのこと。お気遣い、感謝です。

 送っていただいたのは、去年と今年の選手名鑑。タイトル「風呂本」というのは、風呂に入っている時に読んでいたので、ふやけてしまったということなのだろう。あえてモノで「ホーム開幕」を表現しようという意欲は買うが、次回作はぜひ「現場」で撮影したものを送っていただきたい。待ってます!

 以上、やや厳しめの講評をさせていただいたが、皆さんそれぞれにポテンシャルはお持ちだと思う。こちらにも書いたが「ほんの少し」の違いを理解するだけで、写真は格段に上手くなる。徹壱スマホ写真塾は次回も開催予定なので「オリジナル7」の皆さん、そしてそれ以外の会員の皆さんも奮ってご参加いただければ幸いである。以下、会員限定で募集要項をお知らせする。

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