クロアチアへの旅と『東欧サッカークロニクル』 長束恭行(サッカージャーナリスト)<1/2>
今週は、このほどミズノスポーツライター賞を授賞した『東欧サッカークロニクル』の著者、長束恭行さんにご登場いただく。長束さんといえば、日本で最もクロアチアサッカーを深く取材してきたジャーナリスト。私も現地を取材した際には、通訳兼コーディネーターとして大変お世話になった。『東欧サッカークロニクル』は、長束さんのヨーロッパにおける取材活動の集大成であり、今回の授賞は極めて正当な評価であったと思っている。
その長束さん、このほど17年ぶりに活動の拠点を日本に戻すこととなった。クロアチアに10年、その後はリトアニアとブルネイを経ての帰還。久々の日本での生活を満喫している長束さんだが、一方でサッカージャーナリストとしての今後について「迷い」もあるとか。昨年のワールドカップでクロアチアが準優勝し、自身もジャーナリストとして一定以上の評価を得ても、長束さんの中では今も葛藤は続いている。
今回のインタビューは、3週間にわたる東欧取材を終えたばかりの長束さんに直撃。「ロシア以後」のクロアチアサッカーの状況や、このほど現役引退を宣言したミハエル・ミキッチの近況、さらには『東欧サッカークロニクル』の製作裏話やご自身の今後についても語っていただいた。クロアチアをはじめ、東欧サッカーファンには必読のインタビュー。最後までお付き合いいただければ幸いである。(2019年4月15日@東京)
<目次>
*「里帰り」を促した「同志」の言葉
*幻に終わったダリッチ回顧録日本語版
*ルーツを再確認できたクロアチアの旅
*ミキッチの引退発言を引き出せた理由
*念願だったミズノスポーツライター賞
*「既存のライター、もっと頑張れよ!」
写真提供:長束恭行氏
■「里帰り」を促した「同志」の言葉
──今日はよろしくお願いします。17年ぶりに日本に戻ってきて、さっそくJリーグの取材を開始されましたが、J3の試合が続いているようですね。これはやはり、親友の間瀬秀一さんがブラウブリッツ秋田の監督をやっていることが影響しているのでしょうか。
長束 おっしゃるとおりです。彼とはザグレブで一緒に暮らしていた時代があったので、親友というか「同志」という関係ですね。出会った時は、彼は現役選手としてクロアチア2部でプレーしていたんですが、今ではJクラブの監督じゃないですか。しかも17年ぶりに日本のピッチで再会したわけですから、けっこうジーンときましたね(笑)。
──間瀬さんといえば、オシム親子がジェフ千葉の監督時代の通訳として有名ですが、プレーヤーとしてはどんな感じでした?
長束 重心の低いドリブルが特徴で、当たり負けしない強さがありましたね。ジェフの通訳をやっていた時も、人数が足りなくてミニゲームに参加したら、他の選手よりもアピールしていたくらいですから(苦笑)。それでもスパッと切り替えて通訳の道に進み、さらには指導者になったわけですから、本当にすごい人だなと。僕自身、彼からインスパイアされたことはけっこうありましたね。
──長束さんが今回、クロアチアをはじめ東欧諸国を3週間近く旅してきたのも、実は間瀬さんの影響があったそうですが。
長束 そうなんです。17年ぶりに帰国したのはいいんですが、この年齢での再就職は当然ながら厳しいんですよ。しかも最後がブルネイに3年半いたんですけど、書き手としても半分死んだような暮らしをしていたので、自分の方向性を見失いかけていんたんですね。そうしたら、間瀬さんから「自分の原点を見に行くといいですよ」と言われて。
間瀬さんも去年、愛媛FCの監督を解任されたあとに家族を連れてアメリカに行って、自分がプレーしたクラブやそこの関係者に再会したそうです。そこからいろいろ気付くことが多かったと。実は間瀬さんはクロアチアに来る前は、アメリカを皮切りにメキシコ、グアテマラ、エルサルバドルでもプレーしていたんですよね。だから彼にとっての原点はアメリカ。僕の場合はクロアチアですから、それで「里帰り」のつもりで行ってこようと思ったんです。
──なるほど、まさに間瀬さんに背中を押されての「里帰り」だったわけですね。それにしても長束さんは、クロアチア、リトアニア、そしてブルネイと3カ国で暮らしてきたわけですが、SNSを見ていてもブルネイが一番大変そうでしたね。
長束 ものすごく社会的に閉ざされた国で、しかも王室絡みのタブーが多すぎて、それを書くと国外退去になるんですよ。悔しいことに、サッカー絡みで書きたいネタはいっぱいあったんですけどね(苦笑)。王様の甥っ子がブルネイ代表のエースなんですけれど、文字通りの「王様プレー」でぜんぜん走らないとか。
──サイモン・クーパーが喜びそうな話ですね(笑)。
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